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薬と歯肉増殖について ─全身疾患と歯科治療⑫

著者:デンタルオフィス湊

こんにちは院長の荒内です。
今回は、薬と歯肉増殖についてお話ししたいと思います。
ここでは典型的な薬を2つ挙げ、その対処法についてご説明したいと思います。
第一はてんかん薬で、第二は血圧降下剤です。

てんかん薬

第一にてんかん薬(anticonvulsant)についてです。
この疾患は、突然の意識消失、痙攣(けいれん)発作を主症状として、繰り返して起こる慢性脳疾患です。
発作の持続はほとんど1-2分間です。
有病率は1000人に3-7人です。
原因は大脳皮質性神経細胞の過剰な異常放電で、多彩な中枢神経症状が見られます。
全般発作を部分発作、そして分類不能の3つに大別されます。
詳しくは1981年には発表された「てんかん発作の国際分類(ILAE)」をご覧になってください。
発作型が決まったら、その原疾患である「てんかん」あるいは「てんかん症候群」を鑑別します。
抗てんかん薬にはフェニトイン(市販名:アレビアチン、ヒダントール、ジフェニルヒダントインなど)があります。
この薬を長期連用すると、約半分の患者さんに歯肉増殖が起こります。
早い人では、服用開始から約2週間で歯肉増殖が起こる人もいます。
特に若年者や思春期の患者さんに多く発生します。
最初は主に、前歯部に起こります。
前歯の歯肉の中でも歯間乳頭部(歯と歯の間にある歯肉のこと)が多いと言われています。
症状は、歯間乳頭部が赤く腫れあがり、次第に増殖していきます。
歯肉の色は健康な歯肉と変わらず、硬く弾力性があります。
治療方法は、徹底した口腔内清掃です。
とりわけ歯肉溝(sulcus, furrow, crevice)やポケット内の歯垢や歯石を徹底的に排除して、清潔を保つことが大事です。
増殖がひどい時は、増殖した歯肉を切除することもあります。
口腔内清掃を徹底的にやっていても、再発が頻繁に起こるときは、薬の量を減らすか、別の薬に変更したりします。

主な抗てんかん薬・抗痙攣薬をご紹介しておきます。
一般名:薬剤名で記載します。
①フェノバルビタール(PB):フェノバール
②フェニトイン(PHT):アレビアチン、ヒダントイン
③ソニサミド(ZNS):エクセグラン
④カルバマゼピン(CBZ):テグレトール
⑤バルプロ酸ナトリウム(VPA):デパケン
⑥クロナゼパム:リポトリール、ランドセン

投薬時の主な注意点
1.フェニトインは歯肉増殖、粗毛、多毛が起こることがあります。
一般に、薬を飲み始めてから、2,3か月後に顕在化します。
中止後、3-6か月で消失します。
不完全な歯磨きや小児などでは歯肉増殖を助長します。
2.カルバマゼピンを服用中、マクロライド系の抗生剤(エリスロマ イシン、クラリスロマイシン)を服用すると、カルバマゼピンの毛中濃度を急激に上昇させるため、中毒症状を起こしやすくなります。
3.バルプロ酸ナトリウムを服用中、カルバペネム系抗生剤(チエナム、カルベニン、メロペン)を服用すると、てんかん発作を再発させることがあります。バルプロ酸ナトリウムを飲んでいるときはカルバペネム系抗生剤は禁忌です。
4.1-3以外にも気を付けなければならない注意点がありますので、服用前に、医師、歯科医師、薬剤師に聞くようにしてください。
*もし、誰かが痙攣発作を起こしたときは、まず頭を横にして、気道を確保します。
次に痙攣の始まり方、広がり方、呼吸の状態、眼位、意識の有無を観察してください。
発作の重積があれば、すぐに救急手配をしてください。
発作の抑制には、主治医に連絡し、セルシンを静注してもらってください。

血圧降下剤

第二に、血圧降下剤についてお話しします。
高血圧は動脈血圧の高いもので、2つに分けられます。
原因不明のものを第一次高血圧あるいは本態性高血圧をいいます。
高血圧の90%以上が第一次高血圧です。
原因のわかる高血圧を第二次高血圧あるいは続発性高血圧と言います。
高血圧を治療する理由は、日本人の死因の第二位と第三位を占める脳血管障害(脳梗塞や脳出血)や虚血性心疾患(心筋梗塞や心不全)を誘発するからです。
血圧の成人の正常範囲は85-130と言われます。
くわしくは高血圧治療ガイドラインをご覧になってください。

治療薬は、その作用から7種類挙げられます。
①Ca拮抗剤(ノルバスク、コニール、アダラート、ニフェジビン)
②アンギオテンシン(ブロプレス、ニューロタン、ディオバン)
③アンギオテンシンⅡ拮抗剤
④ACE阻害剤(レニベース、コバシル)
⑤β遮断剤(テノーミン、アーチスト)
⑥降圧利尿剤(ナトリックス、ラシックス)
⑦α遮断剤(カルデナリン、デタントール)

投薬時の注意点として、Ca拮抗剤の連用で、歯肉増殖が挙げられます。
しかし、この薬は、歯肉溝内の歯垢や歯石をきちんと除去し、口腔内の清掃をすれば増殖を抑えられます。
つまり、他の薬のように、薬を変更する必要はありません。
その他の注意点は、ACE阻害剤や降圧利尿剤を使っているときは、NSAIDs(非ステロイド系鎮痛剤、例えばロキソニンやボルタレン等)を使うと、降圧作用が減弱されます。
また、降圧利尿剤を服用中に、セフェム系抗生剤(β-ラクタム系抗生剤のひとつで、ケフラールやケフレックス、メイアクト、フロモックス等)を使うと、セフェム系抗生剤の腎毒性が増強されるので、注意が必要です。

いろいろな薬をご紹介しましたので、少し長くなりました。
これらの薬を服用されている場合は、歯科医師にご相談ください。

院長:荒内