成人期の歯周病Ⅱ
もくじ
おはようございます。安倍首相が病気により辞任を発表しました。次の首相は菅さん?!でしょうか?
週末には台風10号が西日本に上陸する予報が出ています。関東もその影響で雨風に注意が必要との事です。非常時に備えて防災グッズの点検をしておくことにします。
今回は熱田のコラムのつづきです。
「成人期の歯周病Ⅱ」
1、成人期の歯周病の実際
成人期を迎えると、生え揃った永久歯が様々な生活習慣や環境の影響を受け、歯の周りの組織を破壊する歯周病に罹り易くなります。そして残念なことに、きれいな歯や歯並び、歯ぐき(歯肉)の状態で一生を過ごせるわけでは無いようです。成人期以降、私たちの歯や歯ぐきはどのように変化してきているのでしょうか。
平成23年歯科疾患実態調査によると、80歳で20本以上の歯を有している(8020達成)方の比率は年々増加しており、80歳人口の38,3%の方々がこれを達成していることになります。
この値は75歳以上80歳未満、80歳以上85歳未満、の数値から推計
そして80歳で残っている歯は13、9本で前回の平成17年の調査よりも3本程度増えています。しかし、永久歯の数は親知らずの4本を除くと28本ですので、それでもここまでの年齢で14本程度の歯を失っており、その最大の原因は歯周病であることが分かっています。
同じ調査で、口の中に歯周病の所見があるかどうかの調査もあり、20~44歳までは、歯周病の症状が何も認められない方が20~30%程度なのですが、45~59歳になると10%台へと、急に下がってしまいます。
また別の結果で、進行した歯周病がある人達の割合が45~49歳で30%以上となることから考えると、若い時期に罹ってしまった歯周病をきちんと治療せず、または予防せずに経過してしまったことがうかがえます。つまり、成人期までに歯周病対策をいかにしっかり行っておくかが、その後の口の中の健康に大きな影響を与える事が考えられます。
ただし、過去の調査と比較すると、成人期の年齢層別の歯周病罹患率はこれでも低下してきているのですが、高齢者ではかえって増える傾向にあります。この原因は、先ほどの高齢者で残っている歯の本数が増加していることと、関係があるようです。高齢者になっても健康な歯を使ってきちんと噛んで、食べるためにも、若いうちからの歯周病予防と早期発見、早期治療が必要です。
2、歯周病とはどのような病気か
では歯周病とはどのような病気なのかセルフチェック表を見てみましょう。
セルフチェック表
①歯磨きをすると歯ブラシに血がつく
②口臭がある
③歯と歯の間に食べ物がよくはさまる
④歯ぐきが赤く腫れている
⑤歯ぐきに痛みがある
⑥歯が以前より長くなったように見える
⑦水を飲むと歯や歯ぐきがしみて痛い
⑧歯の隙間が広がってきた
⑨歯がグラグラする
これらの中で思い当たる項目があったら、歯周病に罹っている可能性があります。このような症状が起こるのは、歯ぐきに炎症が生じ、歯の周りの歯を支える土台である歯槽骨、歯肉(歯ぐき)、歯根膜などの構造が破壊されるからです。土台が破壊されれば、やがて歯のぐらつきが大きくなっていき、自然に抜けてしまうことになります。
重度の歯周炎の患者さんの口の中は、歯ぐきは下がり、歯は長くなったように見え、歯と歯の間には隙間が大きくなっています。エックス線写真でみると、歯の周りの骨がほとんど無くなっています。これでは多くの歯が抜けてしまうのも時間の問題です。
3、歯周病の原因と進行
原因はいったい何なのでしょうか?
まず、主な原因はむし歯(齲蝕)の原因と同じプラークです。最近ではバイオフィルムと呼ばれるようになったこの物質は、歯磨きをさぼると歯の表面にミュータンス菌によって作られるネバネバした細菌の住み家が出来ます。
最初は、むし歯の原因菌のミュータンス菌がほとんどであった所に、やがてプラークが厚くなり成熟すると、空気の少ないところが好きな、歯周病を引き起こす細菌達の数が増大してきます。
このプラークが歯と歯ぐきの境目に溜まると、数日から1週間程度で歯ぐきに炎症が起こってきます。この炎症が、歯の周りの構造を破壊するのです。このプラークを取らないで更に放置すると、唾液や血液の中の無機質成分を吸ってプラークが石のように固まり歯石になり、より強固に歯にこびりつくようになります。
この歯石の表面はざらざらしていて、更にプラークがその上に付着しやすい環境となる悪循環に陥ります。こうして歯の周りの炎症が拡大され、歯の周りの組織を根の先の方向に向かって破壊しながら、この病気は進行していくのです。
歯周病の進行には個人差をはありますが、一般的にはゆっくりと慢性的に進んでいきます。よって、プラークをブラッシングなどで除去しないで放置していると、病気はそれだけ進むことになります。すなわち先程の統計のように若い頃から歯周病に罹っていると、中高年になると歯周病はそれだけで進行してしまうことになります。
4、歯周病は生活習慣病としての側面を持っています
歯周病は、歯科疾患の中で生活習慣病としての側面も持っており、食習慣によるものと、喫煙によるものとに分類されています。
食習慣の面については、軟らかくショ糖(砂糖)が含まれる食生活が続くと、歯の表面にプラーク形成が起こりやすくなります。また肥満や運動不足が原因で糖尿病に罹ってしまうと、免疫抵抗力が低下して歯周病菌の侵入を許しやすくなり、歯周病が憎悪します。糖尿病の方の歯周病は、より重度になり易いことが知られています。
また、喫煙は、歯周病最大の危険因子と位置づけられています。タバコの煙の中の有害成分であるニコチンや一酸化炭素などが、歯肉の免疫抵抗力を低下させ、歯周病の原因菌の攻撃に対して備えることが十分できなくなると共に、治療の後、傷口を修復する細胞達の働きを妨げ、傷口の治りを悪くするのです。喫煙していると、歯周病になり易く、治療の効果が得られにくいという事は、患者さんにとっては大問題です。これは1日の喫煙本数と、これまでの喫煙歴(何年喫煙していたか)と関連があります。
よって、歯科医院では、歯周病の治療に入る前に、食事指導や禁煙指導などの生活習慣の改善指導を行います。
先に述べたように、年齢と共に歯周病に罹る方の数が増えてきますが、一般的な歯周病だけでなく、人生のステージごとに罹り易い歯周病もあります。
5、成人期の特殊な歯周病のタイプ
成人期前後では、18歳頃までの思春期である第2次性微期に現れやすい歯肉炎(思春期性歯肉炎)、妊娠期の歯肉炎(妊娠性歯肉),更年期に多い慢性剥離性歯肉炎などがあります。
思春期や妊娠期には、女性ホルモンのプロゲステロンやエストロゲンの分泌が多くなり、そのホルモンを栄養源として歯周病の原因菌の一つであるPurevotellaintermediaが歯ぐきの周囲で増えやすくなります。この菌は、歯肉の炎症を憎悪させ、歯ぐきを多く腫らします。また更年期は反対に女性ホルモンが減少するために、歯ぐき表面の角化に異常が出て、歯ぐきの外側の面が一皮むけやすくなり、むけると歯ぐきの表面に強い痛みの出る慢性剥離性歯肉炎に罹ることもあります。
さらに年齢が比較的若いのに、10歳代から30歳位までの間に急速に歯周病の症状が進行する侵襲性歯周炎というタイプもあり、こちらは遺伝と、より凶悪な歯周病の原因菌の関与が知られ、一般的な歯周病より重篤な症状があらわれます。
このように、歯周病はプラーク中の歯周病の原因菌と、それが固まった歯石が口の中の部分的原因ですが、生活習慣などの後天的な環境、年齢、さらに先天的な原因である遺伝なども関与します。
その他にも、噛み合わせや歯の他の症状と関連した歯周病など、一口に歯周病といっても様ざまなタイプがあります。
6、予防、早期発見、早期治療が自分の歯を守る
これらの歯周病の様々なタイプを歯科医師は検査結果を踏まええて診断し、それに合わせた治療計画を立てて、治療に取り組むことになります。どんな病気でも同じですが、歯周病も予防、早期発見と早期治療がとても大切です。自分自身での予防管理、そして歯科医院での定期的な検査を受けることで、生涯、自分の歯を、歯周病からしっかり守ることができます。
今回はここまでとさせていただきます。次回は「歯周病の予防と治療」について書かせて
頂きます。