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    学齢期の歯と口の中の状態2

    著者:荒内寛

    おはようございます。関東地方は梅雨に入りました。気温もかなり上がってきました。

    最近は、マスクやアルコール除菌剤、トイレットペーパも普通に店先に見られるようになりました。あの、それらの物を探し回っていたのが嘘のようです。しかし、夏日にマスクをしている時の暑さはかなりのものです。熱中症に気を付けなければなりませんね。人がいない時はマスクを外したり、こまめに水分補給をして夏を乗り切りましょう。

    今回は院長先生の第59回目のコラムを御送りいたします。

    「学齢期の歯と口の中の状態の続き」

    1、顎の発達と咀嚼

    顎は上顎骨と下顎骨の2つで構成されています。

    上顎骨は顔面骨や頭蓋骨と結合している為、動かすことは出来ません。下顎骨は左右の顎の関節(顎関節)を中心に靭帯や筋肉によってぶら下がった状態になっています。一般に「顎を動かす」とは、固定された上顎に対する下顎の動きのことを言います。食事の為に咀嚼する時や会話の時の発音等、必要に応じて下顎が動きます。顎の発育は、上下額で成長の仕方や時期、そして成長方向がそれぞれ異なります。

    〈上顎の成長〉

    ヒトは生まれてから脳の発達が、他の器官より早い為、頭蓋骨に付着している上顎骨が下顎骨よりも先に成長し始めます。上顎骨に隣接する鼻骨や涙骨、頬骨、篩骨、口蓋骨、鋤骨はお互いに接合しています。これらを上顎複合体と呼んでいます。

    上顎複合体は縫合と呼ばれる骨と骨のつなぎ目を持っていて、成長に大きく関与しています。つまり、上顎の成長は骨と骨のつなぎ目、いわゆる縫合部の成長と、上顎骨の表面への骨添加と骨の内側の吸収によって成長していきます。上顎歯列弓の成長は、大臼歯の萌出時期に、歯列弓の両端、つまり上顎結節部の骨添加によって起こります。骨添加によって、歯列弓が後方に延び、また幅も増大していきます。こうして永久歯が生える頃に、上顎歯列弓が成長して、永久歯の生えるスペースが出来上がります。

    〈下顎の成長〉

    上述したように、下顎は上顎より少し遅れて成長します。

    下顎は顎間節を構成している下顎頭で、軟骨性の成長をし、上後方に成長をしていきます。と同時に頭蓋底に対しては、前下方へと成長していきます。そして上顎骨と同様に、下顎骨表面に骨添加が起こり、同時に骨の内面では骨吸収が起こります。その結果、下顎は、外に広がる様に成長して行きます。下顎の成長で特徴的なのは、下顎枝と呼ばれる所が、骨表面と後縁に骨添加が起こり、内側と前縁で骨吸収が起こります。これを繰り返すことによって下顎全体が大きくなり、大臼歯の生えるスペースが出来上がります。オトガイ部では、基底部と先端で骨添加が起こり、成人の顔に近づいて行きます。

    〈咀嚼〉

    咀嚼とは、食べ物を噛み砕いて、消化しやすい状態にする事を言います。顎や筋肉、歯列等の成長によって咀嚼機能も発達します。

    乳歯列期から、第1大臼歯が生えて噛み合うようになると、咀嚼能力は飛躍的にのびます。咀嚼能力を乳歯列と永久歯列で比較すると、永久歯列の方が、乳歯列の約3倍と言われます。これは、硬い食品を粉砕する力、いわゆる咬合力を比べたものです。乳歯列では、平均約20㎏で、永久歯列では、平均約60㎏だったという報告がされています。また食品をすり潰す機能、いわゆる咀嚼効率では永久歯列が、乳歯列の70%以上、上昇するそうです。しかし、、これらは歯や歯肉、歯列、筋肉等に異常が無い場合です。もし虫歯による歯の崩壊や歯周病、歯の欠損、不正な噛み合わせ(不正交合)あれば当然、咬合力も咀嚼効率も低下します。ですから食品のカロリー表や栄養成分表は、個人の咀嚼効率や交合力によって大きく変わってしまうと考えられます。出来れば患者さん毎に、実際のカロリーや栄養摂取量を算出して、栄養指導をすべきものだと思います。また、「スポーツ医学」という言葉が1928年、サンモリッツで第1回スポーツ医学国際会議が開かれてから、初めて使われるようになりました。一方、歯科は、かなり遅れてスポーツ医学の一部として、スポーツ歯学が創設されました。

    日本では、1990年(平成2年)9月1日、第1回スポーツ歯学研究会(於東京医科歯科大学障害者歯科学講座担当)が開催されました。スポーツ医学は紀元前に遡るそうですが、「スポーツ医学」と言う言葉が初めて使われた1928年から、62年も遅れて、スポーツ歯学が誕生したのは、あまりにも遅すぎた感はあります。

    2、虫歯や歯周病(歯肉炎と歯周炎を合わせて歯周病と言います。)の発症

    〈虫歯の発症〉

    生えたばかりの永久歯はエナメル質が成熟していませんので、非常に産に弱くむし歯になり易いので、特に注意が必要です。子の虫歯になり易い永久歯を「幼若永久歯」と呼んでいます。6才臼歯を例にとると、歯冠が萌出する6才から、根が出来上がる8才までが「幼若永久歯」です。歯の根が完成すると「成熟永久歯」と呼ばれます。「幼若永久歯」が虫歯になり易いのは、歯を構成する結晶(アパタイト)がまだ小さく、有機質を多く含むため、硬度が低い状態です。その為エナメル質の大きさや形は、成熟永久歯と変わりませんが、虫歯になり易いのです。

    また、象牙質は歯髄腔が大きい為、まだ薄く、歯根も未完成です。ですから1度虫歯に罹ると刺激が歯髄に伝わり易く、進行が速い特徴があります。お母さん方は、歯が生えてからは最低でも週に1度はチェックをお願い致します。出来れば毎日、子供さんのブラッシングをチェックして欲しいと思います。

    また、臼歯の溝は、フッ素の予防効果が少なく、また、虫歯菌が生息しやすい場所です。幼若永久歯自体が虫歯になり易い上に、フッ素予防も効果が少なく、更に虫歯菌が棲み易く汚れが落としにくい環境下にあります。

    前述のように、虫歯予防をした上で、その溝を約12才頃まで歯科用樹脂で充填する(埋める)事をフッシャー・シーラントと言います。溝に虫歯菌が入り込まないように樹脂、を充填して予防します。保険適応は6才~12才までです。3カ月~6カ月に1回、シーラントが破折していないか必ずチェックしてもらって下さい。

    虫歯菌には、ストレプトコッカス・ミュータンスとストレプトコッカス・ソブリナス、そしてラクトバチルスがあり、三大虫歯菌と言われています。ここではストレプトコッカス・ミュータンスとストレプトコッカス・ソブリナスについて極々簡単にお話しします。これらはヒトに棲息する口腔連鎖球菌の一種で、酸素があっても無くても生存できます。グラム陽性の通性嫌気性菌です。現在、遺伝的に異なる7種類の筋腫が見つかっています。ミュータンスとソブリナスは人、に他の5種類は猿やラットに棲息しています。これらを総称してミュータンス連鎖球菌と呼んでいます。

    〈虫歯菌は主として母親から移ります〉

    虫歯菌であるミュータンス連鎖球菌は赤ちゃんの口腔内には見られません。しかし、乳歯が生えて来ると、おおよそ2才2カ月頃から虫歯菌が歯に定着してくると言われています。虫歯菌はおおよそ、あ母さんから50%、お父さんから30%、その他から20%と報告されています。赤ちゃんに直接の口移しや、噛んだ物を与えたり、スプーンや歯ブラシ等を共有することによって移ります。

    子供さんに「口腔フローラ」を形成して、ミュータンス連鎖球菌が口の中入って来ても、これらの虫歯菌が口腔内に定着ようにする事が大事です。「口腔フローラ」は、子供さんが3才になるまで、虫歯菌を口腔内に入れない事で形成されます。つまり、虫歯菌を持っている人の口移しや、回し飲み、スプーンや箸、歯ブラシ等を共有しない事が大事です。「口腔フローラ」は「腸内フローラ」と「肌フローラ」と共に、三大フローラの1つです。「フローラ」とは細菌叢のことを言います。口の中には500~700種以上、100億個以上の細菌等の微生物が生息していると言われています。これらの微生物には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌が混在しています。

    悪玉菌は、約100種類いて、その中に虫歯菌や歯周病菌が含まれています。もし悪玉菌が増えると、虫歯や歯周病を悪化させるだけでは無く、虫歯や歯周病の患部から悪玉菌が侵入して、血管やリンパ管に入り、心不全や動脈硬化の原因になったり、癌や糖尿病にかかる可能性を大きく高めてしまいます。これらのリスクを下げる為にも、口腔フローラのバランスを整え、これを維持していく事が極めて重要だと考えられます。「口腔フローラ」を形成、維持する為には局所的には、ブラッシングやフロッシング、歯間ブラシの徹底が大事です。全身的には、食事や睡眠、そして規則正しい生活が重要になります。

    今回はここで終わらせて頂きます。次回は第60回です。「学齢期の歯と口の状態」について引き続きお話しさせて頂きます。