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「要介護の様々な状態における、口腔ケアの実際

著者:デンタルオフィス湊

おはようございます。台風18号は温帯低気圧に変わりました。しかし、高知県に一時間に120mmの猛烈な雨を降らせ、これから関東にも接近してくる模様です。東京周辺でも低気圧に向かう南風が強まる予報だそうです。出来たら近づいて欲しくありません。まだ、15号の被害が修復されていません。早く国に激甚災害に認定して欲しいですね。
今週は熱田のコラムをお送り致します。
「要介護の様々な状態における、口腔ケアの実際」

1、認知症の人への口腔ケア

認知症をきたす原因はさまざまであり、その症状の程度も様々です。認知症の方の口腔ケアを困難にする要因としては、歯みがきする時間や方法が判らない、他人に触れられることを極度に嫌がり磨かせてくれない、歯ブラシを噛んだり吸ったりする、じっとしていられない、痛みなどの感覚を上手く他人に伝えることができない、など、沢山あげられます。
しかし、磨けないからと放置しているとむし歯(齲蝕)や歯周病(歯周疾患)の痛みや不快感から食事を摂らなくなったり、口が乾燥したりして、ますます口を開けてくれなくなるかも知れません。
では、認知症の方への口腔ケアの方法ですが、できるだけ静かにケアに集中できる環境を整えてください。そして、実施する時間を一定にして毎日、同じペースで繰り返し行ってください。言葉や文字が理解しずらい場合には、身振りで動きを伝えたり、できない部分は介助してあげましょう。
極度に歯磨きを嫌がる場合や歯ブラシを噛んでしまう場合は、歯みがきに対する恐怖心があるかも知れません。何度も繰り返し声かけをしながら、無理強いせず短時間でできるだけ実施回数を増やして慣らしてみてください。また、口を触れられることに過敏になっている場合には、急に刺激の強い歯ブラシを使わず、軟毛でヘッドの大きな歯ブラシやスポンジブラシのようなソフトな刺激から慣れさせることから始めるのも良いでしょう。
このほかにも、口の中に口内炎や入れ歯(義歯)が当たった傷の痛みによって拒否がある場合もありますので、必ず口腔ケアの前には、頬や歯ぐきの(歯肉)に異常がないか確認してあげてください。
次に、うがいをした水を上手く吐き出せないで飲み込んでしまう場合には、洗口剤などの薬品は使用せず、吸い飲みでうがいをしてもらいます。さらに、むせることがあるようならお水を口に含んだ後に上体を前傾させて、口の端のほうに割り箸や歯ブラシを噛ませて流します(噛む力が強い方には不適)。何でも口に入れてしまうような方の周りには、歯ブラシのような小さな用具は誤って飲み込まないように、手の届かない場所に保管して、一人で使わせないようにしてください。
それでも、口腔ケアが困難な場合には、かかりつけ歯科医や歯科衛生士に相談されることをお勧めします。お口の中を清潔に保つという事は、全身の健康にもつながります。また、口の中が汚れていると美味しさが感じられなくなり、余計に精神的不安定に陥ることにもなりかねません。適切な口腔ケアは、感覚の低下した機能に刺激を与え、食べる機能の良いリハビリににもなります。
認知症の方へのケアは大変ことですが、自分でケアの出来ない認知症の方にこそ、その方にあった口腔ケアが必用なのです。

2、その他のいくつかのケースの場合の口腔ケア

(1)、経管栄養の人の口腔ケア・胃瘻(gastric fistula)

経管栄養の方は、口から食べ物が入ってこないので口腔ケアの必要は無いと思われていることがありますが、これは間違いです。経管栄養の方こそ唾液の分泌量は少なくなり、お口の乾燥や口臭が強くなり易くなります。通常、唾液は歯磨きや会話、食事をする事で量が増えます。
経管栄養の方は、嚥下障害や意識障害を伴っていることが多く、口の中は痰や分泌物の塊におおわれてきます。このような方の口腔ケアは、まず痰などの塊をぬるま湯や含嗽剤で湿らせたガーゼやスポンジブラシで時間をかけて軟化させます。 弱った粘膜を傷付けないように、ゆっくり、力を入れずにぬぐい取ってから歯ブラシを使いましょう。
口呼吸をしている方は、ケアを行っても数時間で乾燥してきますので、頻回の口腔ケアが必要です。乾燥が強い場合には、口腔内を湿らせておく保湿剤も現在多数でていますので、歯科医師や歯科衛生士に相談してみてください。
うがいをする際には、水を誤嚥(誤って気管に入ること)させないように出来るだけ座位が望ましいです。無理な場合には、身体を出来るだけ横向きにして、首が反らない姿勢で流しましょう。むせやすい方は、吸引器を使いながら行うか、水を流さずに何回も拭いながら汚れを除去しましょう。
このほかに注意することは、嘔吐反射です。注入後すぐに歯ブラシを入れると嘔吐反射で注入物を戻してしまうことがあります。嘔吐しやすい方は、注入後少し時間をおいてから歯磨きを行ってください。また長期間、同じチューブを入れたままにしていると、チューブの周りに細菌が繁殖して不潔になります。定期的にチューブも交換してください。

(2)、痰の多い人の口腔ケア

お口から食事を摂らなくなったり、飲み込みが悪い方のなかには粘帳性の強い痰が喉や肺の方に留まってゴロゴロ音がしたり、除去が困難となります。
通常はスポンジブラシなどに絡めて除去しますが、痰が硬くなっている場合や気道内に貯留している場合は、ケアの前に痰を軟らかくして、出しやすくしておく方法がいくつかあります。
痰が硬い場合には、ネブライザー(吸入器)を使用したり、水分が飲める方であれば、こまめに水分補給をするように心がけましょう。特に痰の排出が多い方は、水分も排出されますので補給が大切です。水分が摂取出来ない方は、口を湿らせるだけでも効果があります。
肺に溜まった痰は、体位変換をして出やすくする方法もあります。肺に溜まっている位置によって横向きやうつ伏せにしますが、基本は頭が肺より低くなるようにして痰を口の方に誘導します。この姿勢の取り方は、個々によって異なりますので、主治医や訪問看護師などに指導を受けてから行ってください。
この他にも、痰の絡んでいる部位(胸や背中)を軽く叩く方法もあります。この時の手のひらは、水をすくう時のようにして、手のひら全体でたたかないようにしてください。
以上の事を行っても粘帳度が高く除去できない場合は、吸引器を使って痰を除去してください。
いずれの場合にも受ける人がリラックスして、危険のない体位を取ることが大切です。そして、通院が困難で介護を必要とする方こそ口腔ケアの必要性は高いので、出来るだけ訪問診療を受けることをお勧めします。

(3)、口臭がひどい場合はどうすれば良いですか?

口臭は本人もさることながら、介護者にとってもたいへん不快なものです。
まず、口臭の原因ですが、大きく分けて、①口の中に問題がある場合、②呼吸器疾患や消化器疾患など全身疾患からくる場合、③喫煙やニンニクなど食べ物や嗜好物などからくる場合、に分けられます。
③の場合は、一時的に認められるだけなので心配はいりませんし、②も少数例です。多くは①の口の中の問題であり、たいていは不潔にしていることが原因です。
まずは口の中を良く観察して、歯の周りにネバネバした白い物(プラーク)や食べ物のカスが残っていないかをチェックしてみてください。又、歯周病(歯周疾患。以前は歯槽膿漏と言っていた)が進行している時は、特に口臭が強くなります。このプラーク(歯垢)は歯の周りだけでなく義歯や粘膜などいたるところに存在します。ですから、総入れ歯だからとか、口から食べ物を摂っていないからと言って、清潔にしていないと口臭は酷くなります。
歯を磨くことも口臭除去には重要ですが、高齢者になると特に舌をガーゼや専用ブラシで磨いてあげたり、義歯や粘膜の汚れをきれいにするで、臭いが除去できる場合が多くあります。
これらの器具のほかに、現在、多くの洗口剤が薬局などで売られているのを目にする事があると思います。殺菌消毒作用のあるヨウ素剤(イソジンガーグルなど)やアズレン製剤(アズノール錠など)など、添付文書をよく読み、使用するのも一つの方法でしょう。ただ、嚥下障害のある場合は、洗口させず、ガーゼや綿などにしみ込ませて拭く方が安全です。
これらのケアを行っていても改善が見られない場合は、歯科を受診して専門的アドバイスを受けた方が良いでしょう。

3、口が開かなくても口腔ケアはできる

「口が思うようにあかない」「指示がとおらない」「すぐにむせる」と言った場合には、介護者にとって口腔ケアはしづらいものです。その場合には、「口が開かなくても、口腔ケアはできる」という事を念頭においてください。
すなわち、口が閉じられたままでも、口角(唇を閉めた左右どちらかの脇)から滑り込ませるようにして歯ブラシを口の中に挿入します。そして、歯の表面だけでも結構ですので、シャッシャッと音がするようにブラッシングをします。右側を上下、前後10回ずつ歯磨きをしたら、今度は左側を同様に行います。そのうち、反射的に口を開けることがあります。その時は、舌と口蓋(上あごの歯列の内側)だけでも歯ブラシをあてます。
なぜなら、口腔機能に障害のある人には、誤嚥性肺炎になる原因菌は圧倒的に舌と口蓋の表面に付着しているからです。
歯科衛生士は、口腔ケアの専門家です。脳卒中、認知症、神経難病であっても、ある程度、回数を重ねていくうちに、患者さんと信頼関係を構築し、口腔ケアに関する抵抗を無くしていきます。場合によっては、開口器、歯間ブラシといった器具、又はむし歯(齲蝕)、歯周病、粘膜炎症予防用の薬剤や口腔内保湿剤といった薬剤を使用し、口腔ケアを実施します。
要介護高齢者に対しては、家庭での口腔ケアと、1~2週間に1度の歯科衛生士による口腔ケアを組み合わせることで、口腔衛生と口腔機能の維持・向上を果たすことができます。
今回はここで終わりとさせていただきます。次回は「要介護者の歯と口の健康を守る」をお送りしたいと思います。