電話番号

要介護者の様々な状態における、口腔のケア実際

著者:デンタルオフィス湊

おはようございます。9月8日の台風15号は大変怖かったですね。あんなに強い雷と暴風雨を体験したのは初めてです!余りの強風に窓ガラスが割れてしまうかと思いました。一晩中、眠れませんでした。一晩明けてびっくりしたのは、千葉県のほとんどが被害にあいました。停電と断水です!被害を被った方々にお見舞い申し上げます。
今日は熱田がコラムを書かせていただきます。
「要介護者の様々な状態における、口腔のケア実際」

身体に障害のある人達への口腔ケア

身体障害の代表的なものとして脳性麻痺があげられます。脳性麻痺の人には姿勢や運動機能、口腔領域などの障害に配慮して口腔ケアを行う必要があります。

1、姿勢への配慮

脳の障害により、運動機能の発達に遅れが生じて首が座らない、お座りができないといった人たちが見られます。一般に低年齢児の場合は、寝かせたり、横抱きにしたり、あぐら座りで抱いたりして、姿勢の安定をはかりながら口腔ケアを行います。
また、年齢が高い場合にはクッション・チェアーや改良した椅子(座位保持椅子など)を使用して行うこともあります。さらに、寝たきりで体の変形や拘縮=こうしゅくの強い場合には、三角マットやタオルケット、バスタオルなどを身体の隙間に埋め、安定した姿勢を確保したうえで口腔ケアを行います。
このように、脳性麻痺や身体障害の人達にとって、姿勢を安定させることは、不安定な姿勢よって緊張が引き起こされ、それから生ずる不随意運動や異常な姿勢反射(緊張性頸反射や緊張性迷路反射など)を少なく抑えることができます。

2、心理的な面への配慮

特に脳性麻痺の人達に限ったことではありませんが、心理的な側面にも十分注意して口腔ケアをする事が大切です。つまり、口腔ケアを行う場合は、緊張を少なくするために、落ち着ける場所で、信頼できる人たちにより、習慣化されていることが重要です。また、関わる際には、急激な姿勢変化や突然の刺激(物音、接触、冷温水、味、臭いなど)を避け、ビックリさせたり(驚愕反射)、緊張させたり(緊張性の病的姿勢反射の出現)しないように注意することが大切です。
毎日行われる口腔ケアが不快感や苦痛の連続では、心理的拒否と言って、歯ブラシを見ただけで泣いたり、緊張したり、逃げたりするような拒否行動が現れます。そのため、口腔ケアを実施する際には、事前によく説明し、器具、機械などを見せ、やさしく言葉をかけをしながら丁寧にかかわり、呼吸や全身の状態を確認して進めることが大切です。

3、口腔領域の問題点と口腔ケア

脳性麻痺の人達によく見受けられる口腔領域での問題点としては、次のようなものがあります。口腔ケアの基本的な方法は次の「知的障害のある人達への口腔ケア」で解説しています。

(1)過敏への対応
「過敏」とは、顔や口腔周囲にタオルや手指、スプーンなどが触れただけで異常に強い拒否反応や緊張状態を現すことを言います。主に脳性麻痺や精神遅滞の一部の人達に見られ、食事や歯みがき、言葉の発達にも影響します。
過敏に対しては、手のひらや指をしっかり当てて除去する方法(脱感作)が一般的に行われています。しかし、過敏の状態によっては生活リズムや日常の生活習慣を見直し、脱感作の方法や口腔ケアの具体的な進め方を十分検討する必要があります。それらについて、専門家に相談する事をお勧めします。

(2)咬反射の対応
「咬反射」とは、口の中に歯ブラシやスプーンなどを入れた途端、反射的に噛んでしまうことを言います。咬反射があると、口の中に入れた物が壊れるだけでなく、壊れた破片を飲み込んだり、歯が割れたり、舌や頬の粘膜を傷付けたりする危険があります。また、噛みしめてしまうため、歯の裏側(舌側面)を清掃することが難しくなります。
口腔ケアは①慣れた場所、人、一定の手順で行い、②体調や機嫌、姿勢や緊張状態に配慮し、少しでも咬反射を抑えるようにします。しかし、咬反射が出て歯の溝や内側が清掃しにくい場合は、一時的にビニール・ブロックやガーゼ・ブロックを噛ませ、口腔内の清拭や洗浄などを行います。
この時の注意点として、①ブロックで口唇を傷付けたり、歯の破折や交換間近な乳歯を脱落させて飲み込ませないように注意します。②汚水や洗浄液を誤嚥(誤って気管に入ること)させたり、気道を閉鎖させないようにバキュームやガーゼ、綿棒、卷綿子などで排水します。

(3)歯肉増殖への対応
口腔内を不潔にしたまま、抗痙攣剤(フェニトイン系薬剤など)を長期に服用した場合に、歯肉の増殖が見られます。歯肉増殖は見栄えだけでなく、歯並びや噛み合わせの異常、口臭の原因になったり、食べ物の感覚刺激を正しく受け入れられなくなります。
歯肉増殖への口腔ケアは、歯の表面や歯と歯ぐきのとの隙間(歯肉ポケット)に付着した歯垢(プラーク=細菌の塊)を小さめの軟らかい歯ブラシや歯間ブラシ、フロスなどで丁寧に取り除くことが基本となります。
うがいができる場合には、殺菌作用のある薬剤(ヨウ素製剤)や炎症を抑える薬剤(アズレン製剤)などを補助的に利用することも良い方法です。

(4)うがいの出来ない場合
口が開けられない、うがいができないといった人たちには、歯磨きや含そう剤、洗浄剤を頻繁に使用することができません。そのため、温めの緑茶をコップに入れて歯ブラシをゆすぎながら歯磨きしたり、温めの緑茶を綿棒や卷綿子にしみこませて清拭します。
特に唾液が少なく、口の中が乾燥しやすい場合にはレモン水(約10%-唾液の分泌を促進)やパイナップル水(生果汁―口の中や歯の表面のたんぱく質を分解)で洗浄(または清拭)し、最後に温湯などで洗浄します。

4、口腔ケアの意義

脳性麻痺の人達にとっての口腔ケアは、食べることや話すことの発達に良い影響を与えるばかりでなく、時にはむし歯(齲蝕)などの痛みによって引き起こされる筋肉の異常緊張や不随意運動、病的な姿勢反射の出現などを防ぐ事にもつながります。
また虫歯や歯肉の慢性的な病気(重度の歯周病など)によって全身的な病気を引き起こすことがあり、新たに合併症や二次的な障害を作ってしまうことがあります。(これを歯性病巣感染と言います。)
口腔ケアは、口の健康を通じて全身の成長や発達、健康の保持にとって、とても大切な役割を果たしています。

知的障害のある人達への口腔ケア

一般的に、知的障害(精神発達遅滞、ダウン症候群、自閉症スペクトラム、てんかんなど)によって口腔内に特別な問題が存在するという事はありません。
しかし、障害の程度や合併症によっては、口の働きが低下したり、食生活が乱れたり、生活リズムが不規則になったりします。また、家庭でのかかわりが難しくなって、歯磨きを上手にやらせなくなることがあります。その結果、口腔内は不潔になり、さまざまな症状が現れます。

1、口腔のケアをする際の注意点

知的障害の人達に口腔ケアを行う場合は、次のような点に注意する必要があります。
①多くの場合、指示理解の困難さ、運動機能の遅れ、新しい場面や急激な状況変化への不適応などにより、感情や気分を害して強く拒否することがあります。
②触覚、味覚、臭覚などの感覚障害や各種情報の統合処理機能の障害などにより、物や人、場面や状況などを正しく認識できないために、パニックや常道行動(手振り、ロッキングなど)こだわり(道順、配置、日課など)などの行動が現れることもあります。
③身体障害と同様に抗痙攣剤を服用している人がいます。特にフェニトイン系製剤の場合、副作用の一つとして歯肉増殖に注意する必要があります。
④染色体異常の人の場合は、感染に対する抵抗力が低下したり、心疾患や口蓋裂など各種奇形を合併することがあります。
このように知的障害のある人達への口腔ケアは、全身状態に配慮しながらA、口腔ケアを行う時間、場所、かかわる人。B、判りやすい言葉やほめ方。C、ケアの手順。D、ペース。E、拒否行動出現の対処方法。F、使用器具などについて出来るだけ変化を少なくし、繰り返し行うことにより獲得しやすくなります。

2、口腔領域の問題点と口腔ケア

ここでは、精神発達遅滞の人を中心に口腔ケアの具体的な方法を述べます。

(1)口腔内の清掃が不十分で、むし歯や歯周病、口内炎、口臭などの原因になっている場合
一般に、精神発達遅滞の程度が重くなるほど、日常生活の中で介助の比率が増え、歯磨
き一つを取っても口の中を清潔にする事が難しくなります。そのため、保護者や介助者に
よる口腔のケアが重要な予防手段となります。
具体的な口腔ケアの進め方として、
①歯磨き場所や方法の検討
できれば本人の歯磨き習慣が定着するように、場所や時間帯、方法(言葉かけや歯みが
き開始部位、歯みがき順序など)をパターン化する事が大切です。
②口腔内観察
対象者の口腔内をよく観察し、口内炎や歯・歯肉などの異常を確認します。また、食べ
物や歯垢(プラーク=細菌の塊)のたまりやすい所を日頃から確認しておきます。
③口腔内の湿潤
洗口が可能な場合は、ぬるま湯のほかに消毒・殺菌効果のあるポピドンヨード(イソジン
ガーグル)希釈液や温めの緑茶(カテキン)を利用します。しかし、洗口が困難な場合
には、前記の溶液を綿棒や卷綿子、ガーゼにしみ込ませて清拭します。
④歯面の清掃
介助者の指で対象者の口唇や頬を側・上方に引いて口の中を見やすくし、やや小さめの
歯ブラシを用いて歯の表面を清掃します。歯磨きの順序や声かけ、褒め言葉などにも注
意します。
⑤歯間の清掃
デンタルフロスや歯間ブラシなどで清掃します。
⑥舌の清掃
洗浄液をしみ込ませたガーゼや卷綿子などで、舌や口腔粘膜の清掃をします。
⑦口腔内の洗浄
最後にぬるま湯などで洗浄し、ガーゼや綿棒、卷綿子などで拭き取ります。

(2)口呼吸による口唇亀裂や前歯部の歯肉炎への対応
鼻閉(鼻詰まり、アレルギー性鼻炎など)や習癖によって口呼吸を行うようになると、口腔周囲が乾燥し、口唇亀裂や歯肉炎が起こり易くなります。
根本的な治療法はありませんが、一般的な対処療法として、加湿器の使用、リップクリームやワセリンとマスクの併用、レモン水などで小まめに洗口、ビタミン剤の補給、などがあります。

(3)摂食機能障害による食べ物の停滞
知的障害の人達の一部には、食べる機能の障害によって食べ物が停滞したり、口腔内が不潔になったりします。
この場合、食べ方の指導訓練を行うと共に、食べ物の停滞している場所や不潔になっている場所を確認し、清掃します。
また歯ブラシやコップ、ストロー、綿棒、卷綿子の使用は、いろいろな感覚刺激の体験や口唇、舌の機能訓練の良い機会にもなります。

(4)反復性嘔吐や反芻(はんすう)への対応
他人に対する要求行動や逃避行動、拒否行動の一つとして、また摂食機能障害や食行動の異常行動、身体の病的状態(消化器系の病気=食道炎や潰瘍、歯痛など)の一症状として嘔吐や反芻が見られる事があります。
この場合、できるだけ原因を取り除きながら、口腔ケアを行う事が大切です。毎日の口腔ケアが負担となって症状を増悪させる場合もありますので、注意が必要です。
対処療法として、信頼関係の確立、規律正しい生活リズム、安定した生活環境。適切な生活(作業)課題、達成感や充実感のある生活、不快や苦手な感覚刺激の制限、むし歯や歯周炎などの病的苦痛の除去などに配慮して、口腔ケアの環境を整備します。
また、嘔吐や反芻の直接的な影響として、食べ物の停滞や胃液の逆流によって、歯や口腔粘膜が損傷しますので、歯ブラシによる清掃や洗浄液によるうがい、清拭などが大切になります。

(5)歯の位置異常や口蓋裂などの合併症への対応
染色体異常を持つ知的障害の人達の中には、骨の発達異常や口蓋裂などによって歯並びや噛み合わせの不正が見られる事があります。
歯の位置や歯並びの不正によって、食べ物や歯垢(プラーク)が溜まりやすくなり、歯磨きも困難になります。この場合、通常の歯ブラシの他に狭い場所用に小さな歯ブラシ(タフトブラシ)や歯間清掃用にデンタル・フロス、歯間ブラシが必要にとなります。また、使用方法に注意して行えばウオーター・ピック(水流による口腔洗浄器)も有効です。
特に口蓋裂の場合、上顎の割れ目(列隙)を手術や特殊な補綴物(プレートなど)で閉鎖することも大切な処置となるので、専門医への相談をお勧めします。

3、知的障害の人に対する口腔ケアの意義

知的障害の人達は、新しい課題や急激な変化には適応が困難ですが、繰り返し習慣化された行動や課題に対しては忠実に実行し続けるという傾向を持っています。
口腔ケアを習慣化し、風邪やインフルエンザ等の感染症や糖尿病や心臓病を始め、全身の健康の維持・増進を図ります。そして、文字通り、口腔の健康を保持・増進することによって、口腔内の病気(むし歯、歯周病、不正交合、機能障害など)による痛みや不快感を取り除くことができ、口腔内の爽快・清涼感が得られます。また、見映えも良くなり、偏食や口臭、問題行動の出現も少なくなります。
更に、口腔ケアのかかわりを通じて、対人関係の育成や指示従命の訓練(簡単な説明)機会、生活リズムの確立、歯磨きなどの生活動作の習得につながり、身辺処理の自立や社会生活への参加にとって大切な役目を果たしています。
今回はここまでとさせていただきます。次回はこの続きで「認知症の人へのケア」からになります。