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要介護者に起きやすい、食べる機能の障害と食事の問題 ─介護を要する方の為に

著者:デンタルオフィス湊

デンタル・オフィス・湊という歯科診療所です。毎週金曜日にコラムを出しています。初めてこれをお読みになる方、今後も引き続きご愛読頂けますよう、よろしくお願い致します。三人が週替わりで担当しております。
今回は熱田が書かせて頂きます。
要介護者に起きやすい、食べる機能の障害と食事の問題

要介護者に起きやすい口の障害

1、食べる機能に関連した 口、喉の動きと機能

食べる機能に関連した正常な口、喉の動きと機能を知らないと、障害された時に、どの動きが障害されているか判断できません。まず正常な動き、機能を理解しましょう。
食べるという事は、食べ物が口に入ってモグモグと咀嚼する、あるいはゴックンと嚥下する事から始まる動きではなく、次のように、
①目の前におかれた食物を、食物として認識する事から始まり、
②口唇と歯で食物を口に取り込み(捕食)
③口の中で咀嚼し、飲み込み易いように一塊(食塊形成)とし、
④食塊を口から喉へ送り(咽頭への移送)、
⑤食塊が嚥下反射の引き金を引く部位に達すると、反射として嚥下反射を生じ、胃の方へ自動的に送られます(咽頭通過)。
⑤からは皆さんも経験していると思いますが、食べ物を口に戻そうとしても戻すことはできず、反射運動で喉から胃に送られます。
⑥食道を通り(食道通過)、胃に送られます。
専門学的に言うと、①の食べ物を認識することは認知期あるいは先行期、②の捕食と③の咀嚼、食塊形成は嚥下ができるように口の中で処理し、準備するということなので、ひとまとめにして準備期、④は口腔期、⑤は咽頭期、⑥は食道期と5つに分類されます。

2、口腔が障害された時の機能改善のための訓練

口(口腔)の機能である捕食、食塊形成、咽頭への移送は随意運動といって意志によって調整可能な部分です。障害されたとしても手足が不自由になった時の訓練と同じです。筋肉の再教育訓練、筋力強化訓練、運動パターンの反復学習などの運動療法により、機能が改善されます。
運動療法には、①食べ物を用いない間接的(基本的)訓練と、②食べ物を用いる直接的(摂食)訓練があります。
①間接的訓練は、食べ物を用いないため安全性が高く、誤嚥(食物が誤って気管に入ってしまうこと)の状態(有無、程度)が確認できない場合、食べる機能の障害が重い場合にも行えるという利点があります。
②直接的訓練は、実際に食べ物を用いての訓練なので効果的ですが、一方で誤嚥の危険を伴います。直接的訓練では、姿勢、食物の形態、一口に食べる量が危険のない安全な食べ方の重要な条件となります。
食べる障害の診断と訓練法の選択は専門家の指示に従うべきです。以下に観察のポイントと訓練法を述べます。

3、食物の認識障害

専門用語では、先行期障害と言われています。「食べ物を見ても反応しない」、感情失禁と言って「食べている最中に泣いたり笑ったりする」、「がつがつむさぼるように食べる」などが、典型的な例です。
意識障害のある場合は、意識の良い時間帯を選び、食事に集中できる環境(静かで落ち着く雰囲気)にする必要があります。上手に食べる事ができないからといって叱りつけたり、不用意に嫌な表情を見せない事が大切です。感情失禁を誘発するような行動は慎むべきです。
絶えまなく食事を口に運ぶ場合には、介助者自身で食事を摂るペースを想像し、それよりさらに遅く食事を介助し、スプーン一口につき数回嚥下させるなど、食事のペースをゆっくりさせ、リズムを作ってあげる必要があります。

4、捕食障害

〈観察のポイント〉
口唇が動かない。口唇を閉じる事ができない。右と左で閉じ方が異なるよだれが目立つ。口から食事がこぼれる。(上を向かないと)口の中に食事を取り込めない。
①間接的訓練
口唇や舌のマッサージ、皮膚のアイスマッサージ、唇の体操、発音訓練を行います。
②直接的訓練
口から食物がこぼれる時は、食物がこぼれないように上体を少し後ろに倒します。(倒す角度は個人によって異なります)捕食後、口唇閉鎖の介助が必要です。顔面神経麻痺などで片側が麻痺しているときは、麻痺している側を上にする体位をとり、食物は健康な側に運びます。

5、食物形成障害

〈観察のポイント〉
舌を前後・上下・左右に動かせるか。下顎の上下運動、臼磨運動(臼歯で行われるすり潰し運動)が可能か。
①間接的訓練
顎・舌・頬のマッサージ・運動、筋肉への刺激訓練、発音練習などを行います。
②直接的訓練
捕食障害と基本的には同じです。麻痺側の頬と歯肉(歯ぐき)の間(口腔前提)に食物が残る場合は、頬を軽く押さえて食物を押し出します。頬を噛んでしまう時は、濡れても形が崩れない紙コップなどを口の大きさに合わせて切り抜いて、頬と歯ぐきの間に入れ、プロテクター代わりにすると良いでしょう。

6、咽頭への移送障害

〈観察のポイント〉
舌がよく動かない。呂律が回らない。口の中に食物が残ってしまう。飲み込むときに上を向かなければならない。盛んにモグモグするが、なかなか飲み込まない。
①間接的訓練
舌運動訓練、発音練習が行われます。
②直接的訓練
障害が軽度であれば、意識して飲み込むだけで改善する場合もあります。食物の送り込みが困難であれば上体を倒し、重力を利用して食物を喉の方へ送り込みやすくします。次の段階の咽頭通過障害がなければ、流動食に近い食形態を使用する場合もあります。
うまく顎と口唇が動かず、嚥下する時に口を閉じることが困難な場合は、上顎と下顎の歯が噛むように下顎を介助して固定し、さらに口唇を閉じるように介助すると食物を送り込やすくなります。

7、咽頭通過障害

最大の問題は誤嚥です。誤嚥してもむせない場合がありますので、むせないからといって安心はできません。
〈観察のポイント〉
食事中、食後にむせる。喉に食物が残った感じがする。食べると声が変化し、ガラガラ声になる。食後に喉がごろごろする。食べると疲れる。食事中あるいは食後に痰の量が増える。
嚥下造影によりにより食塊が残り易い部位(梨状陥凹=りじょうかんおう、喉頭蓋谷=こうとうがいこく)、誤嚥の状態などの評価を行い、訓練方法を決定するのが理想的でしょう。大学病院などに問い合わせて、こうした処置をしてもらえるかどうか聞いてみてください。
嚥下反射は随意運動である捕食、食塊形成、咽頭への移送に引き続いて起こるので、先ず口腔領域の運動を改善することが必要です。
①間接的訓練
喉のアイスマッサージ、嚥下パターン訓練、喉頭挙上手技、呼吸訓練、発音訓練、咳をする練習、などが行われます。
②直接的訓練
嚥下の意識化:嚥下に意識を集中させます。嚥下以外に注意が向いていたり、なんとなく嚥下するのは誤嚥しやすくなります。
空嚥下と交互嚥下:一口食べたら、次々と口に運ばず、唾液とともに嚥下するか(空嚥下)、食塊の後、汁物(水分)を嚥下し(交互嚥下)、喉(咽頭)に残留している食塊を食道に送り込みます。喉や食道に食べ物がつかえた時に、水を飲むと食べ物が流れやすくなり、胃に入っていく経験をしていると思いますが、同じことです。
うなずき嚥下と横向き嚥下:喉(咽頭)には食物が残留しやすい場所が2ヶ所あり、喉頭蓋谷と梨状陥凹と言われている所です。喉頭蓋谷に溜まった食物の除去にうなずき嚥下、梨状陥凹にたまった食物の除去に横向き嚥下が行われます。
声門越え嚥下(SUPRAGLOTTIC SWALLOW):間接的訓練としても用いられますが、正常嚥下での呼吸と嚥下の関係(嚥下のときには息を止め、嚥下後は吐く息=呼気から呼吸が開始される)を強調した方法です。

8、食道通過障害

〈観察のポイント〉
食物が胸につかえる。流動食でないと胃に入っていかない。飲み込んだ食物が逆流し、嘔吐することがある。
①間接的訓練
食道の構造的な障害(狭窄=きょうさく)による場合があります。この時は、食道を広げる拡張術が選択されます。訓練は嚥下造影で効果を確認しながら行うのが基本です。
②直接的訓練
食道の動き(蠕動運動=ぜんどう運動)が悪い場合、粘度の少ない食品を用い、出来るだけ身体を起こす事によって重力を利用し、食塊を胃に送りやすくします。空嚥下や交互嚥下をし、食道で停滞している食塊を胃に送り込みます。食道からの逆流に対しては、食後しばらく横にならない方が良いでしょう。
今回はここまでにさせていただきます。次回はこの続きを書かせて頂きます。