電話番号

高齢期になって現れやすい歯と口の病気5 ─高齢者の歯と口の中の状態 11

著者:デンタルオフィス湊

おはようございます。又、台風が来て、猛暑がぶり返しましたね。一旦涼しくなったので、暑さがきついです。
8月26日に院長先生ご夫妻と成田に出かけた帰りに、「かなとこ雲」を見ました。雲の中は稲光が何回もビカビカ光っていました。しかし、悲しいかな、そういう場面に出くわしても、「即、写真を撮る」という行為が身についておらず、誰も何も撮る事を忘れてしまいました。
今週は熱田のコラムです。
「高齢期になって現れやすい歯と口の病気5」

口の中の癌

(1)前癌病変とは

「前癌病変」という名称そのものを見ますと、確かに「癌」という文字が入ってます。そのために、これをそのままイコール「癌」なのではないかと考える方も多いかもしれません。しかし、この「前癌病変」の定義を学術的に調べてみますと、その時点では「癌」ではないが「癌」に移行する可能性のある病変とされています。要するに「前癌病変」と呼ばれる病変は「癌」ではないのですが、放置すると、ある一定の 割合で「癌」に変わっていく可能性がある病変ということになります。
口腔内の前癌病変の代表には、「白板症」があります。通常、口腔内の粘膜は皮膚のように角質層を作ることは無いのです。白板症では粘膜の一部に異常が生じて角質層が出来て来る事があります。その角質層が白い病変として観察されます。
原因としては、加齢に伴う唾液の分泌低下から、粘膜が萎縮する事や、長年の喫煙にともなう刺激で角質層の形成が異常に亢進する事などが考えられています。
白板症と一口に言ってもその種類はさまざまですので、一概にすべてが癌化するとは言えません。癌化をし易い白板症か、そうでないかは、組織を一部切り取って顕微鏡で細胞の形態を観察する「生検」と呼ばれる検査が必要になります。
白板症は白い前癌病変ですが、赤い前癌病変もあって、そちらは「紅板症」と呼びます。紅板症は白板症よりずっと頻度は低いですが、癌化の比率は非常に高く、紅板症そのものをすでに癌と呼ぶべきであるとする学者もいます。

(2)口腔癌

「癌」と言いますと胃がんや肺がんをイメージしますが、口腔内にも癌は発生します。前項で述べたような前癌病変を経て口腔癌が発生する可能性がある事は勿論ですが、いきなり癌として発生する場合もあります。最も発生頻度の高い部位は舌ですが頬の粘膜や歯ぐき、上あご(上顎)など、どの部位にも癌は発生します。
いわゆる中高年と呼ばれる40歳代から60歳代にかけてが口腔癌の好発年齢とされてきましたが、最近では平均寿命の延長にともない、高齢期での発症も増加傾向にあります。口腔癌と言ってもその種類はさまざまですが、もっとも多いのは「扁平上皮癌」と呼ばれるもので、これが口腔癌の約9割を占めます。

(3)口腔癌の治療

口腔癌の治療に特殊なものはなく、多くの施設で以下の3つの治療法が行われています。その3つとは、1.手術療法、2.放射線治療、3.化学療法、です。
現在もっとも根治性の高い治療法は、1.の手術で切除する方法とされています。
手術療法は文字通り病変を切除する治療法ですが、癌の部分を切除しただけでは十分とは言えない場合もあり、特に頸のリンパ腺に癌が転移している可能性がある場合には、頸のリンパ腺を取り除く手術(頸部郭清術)も同時に行わなければならない事があります。
又、切除しなければならない臓器組織の量が多い場合には、切除後の傷の閉鎖や顔の変形の防止、飲み込みや発音への影響を出来るだけ軽減する目的で、腕の皮膚や腹部の筋肉、皮膚、足の骨や肩甲骨などを、それらを栄養する血管と共に血液の供給を維持した臓器として移植する手術が同時に行われる場合もあります。
2、の放射線治療はがんの病巣部に放射線を照射し、癌を段階的に壊死させ、正常組織に置き換わらせていく治療法です。癌がまだ余り大きくなく、頸のリンパ腺への転移もない場合には、手術で切除してしまうよりも臓器への影響が少ない為、この放射線治療が選択される場合が多いようです。
放射線治療には、放射線物質を含有する針や金属の粒を癌の組織内に埋め込んで照射する組織内照射という方法と、レントゲン撮影のように体の外から放射線を当てる外部照射という方法の2つがあります。
3、の化学療法というのはいわゆる抗癌剤と呼ばれる薬剤による治療法のことで、内服薬や注射などのよって投与されます。手術や放射線と違って全身に投与されるので、副作用が問題になることがあります。
これら3つの治療法は、癌の進行の程度に応じて組み合わせて行われたりします。

(4)口腔癌の早期発見法

前項でも口腔癌の治療で最も根治性の高いのは手術療法ですが、癌の進行が進めば進むほど切除しなければならない臓器組織の量は当然多くなります。ですから、切除範囲が重要臓器に及ぶ場合には手術できないという可能性もあります。そうならないようにするため、又、手術になったとしても、切除で喪失する組織量を出来るだけ少なくして術後の生活の質を下げない為にも、早期発見は非常に重要です。
最近では、近隣の歯科医院などで口腔癌検診を定期的に行っている地域も増えてきています。自分の口の中というのは鏡などを使ってもなかなかよくは見えないことが多いので、歯科医院へ定期的に受信して検診をして貰うのが賢明でしょう。しかし、近隣の歯科医院で必ずしも口腔癌検診を実施しているとは限りません。なんといってもご自身の体ですから、ご自身でチェックすることが原則です。
一般的に癌は、病変はあるのに、しみる、痛いなどの症状に乏しい事が多いので、先ず口の中をよく観察する事が重要です。例えば、口内炎があるのに痛くない、しみないなどは注意が必要です。先に述べた白板症のような前癌病変を見つけた場合には、それをいくら眺めていても癌に移行しやすい白板症なのかどうかは分かりません。迷わず口腔外科のある医療機関を受診し、生検という検査を受けて下さい。又、赤い病変の場合には紅板症の可能性がありますから、早期に口腔外科を受診するようにしましょう。更に癌は病変の周囲にしこりを伴うことが多いので、口内炎を見つけてその周囲にしこりを触れる場合も、出来るだけ早く、歯科を受診して下さい。

(5)口内炎との違い

口内炎には適合の悪い入れ歯(義歯)や歯の詰め物(充填物)、あるいは尖った歯の
先端や入れ歯の針金などがこすれてできる褥瘡によるものと、原因が判然としてい
ないアフタによるものがその代表としてあります。いずれも接触や刺激によって痛
みを伴うことが多く、癌による口内炎よりも見た目には表面やヘリの部分がきれい
であることが多いです。褥瘡による口内炎は、褥瘡の原因になっているものを取り
除けば速やかに治癒に向かいます。また、原因がよく解っていないアフタでも通常
は1週間程度で治癒していきます。
癌による口内炎は拡大や進行して、治る事、あるいは治る方向に変化する
事はまずありません。また、病変の状態が変化する事はありません。更に、前項で
も述べましたが、癌による口内炎であれば、その周囲にしこりを伴うことが多いの
で、その点を注意して観察すれば、癌による口内炎を見落とすことは少ないでしょ
う。

(6)口腔癌治療後(中)に歯科治療を受ける時の注意

特に注意を要するのは、放射線治療を受けている場合です。放射線は癌を壊死させる為に照射しますが、癌の周囲にある正常な組織にもダメージを与え、その治癒力を低下させてしまう作用があります。放射線治療を受けた後に、どのくらい期間を経ていれば放射線の影響がなくなるかという問題に対して、今のところ明確な見解は出されていません。したがって、放射線治療を受けていることを申告せずに、安易に歯科医院で抜歯処置などを受けてしまうと、抜歯した創部が治らず、そのまま難治性の顎の骨の炎症(骨髄炎)に移行する可能性が高くなります。このような事態にならないためにも、自身による口腔ケアと抜歯にまで至らない早期歯科治療を受ける事が重要になります。
次に、化学療法を受けている場合には、全身状態にダメージが及んで抵抗力が低下しています。歯科治療を受けるには、一度ダメージを受けた全身状態がどの程度回復しているかを評価する必要があります。感染性疾患のほとんどは歯に原因があると言われており、化学療法で全身の抵抗力低下した状態で安易に抜歯や歯石除去歯の根の治療などを受けると、それが原因で全身の感染症を引き起こす可能性があります。
最後に、手術で舌や顎の骨を大きく切除されている場合には、飲み込みの反射や機能が通常よりも低下しているので、歯の詰め物や被せ物を装着する際に、それらを誤って飲み込んでしまったり、気管の中に吸い込んでしまったりしないように注意する必要があります。
今回はここまでとさせていただきます。次回は「高齢期になって現れやすい歯と口の病気6・味覚異常」を書かせて頂きます。