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高齢期の口の機能を守る ─高齢者の歯と口の中の状態5

著者:デンタルオフィス湊

おはようございます。今年は桜が咲き始めましたら、殆ど気温が下がらなかったので、一気に満開になり、今は葉桜になっています。また来年を楽しみにしたいと思います。
今週は熱田の担当で「高齢期の口の機能を守る」です。

1、口腔の機能

家族や友人との会話を楽しみながら、美味しい食事をすることは誰にとっても大きな喜びです。食べ物を口の中に運び、歯でよく噛み、唾液と混ぜ合わせて飲み込むという一連の動作を、摂食・嚥下機能と呼びます。摂食・嚥下機能が上手く働かないと、美味しく食べたり、元気に暮らすことが出来なくなります。又、コミュニケーションのために必要な機能は、構音機能と言います。良好な摂食・嚥下機能と構音機能の維持は、生活を楽しむために欠かせないものです。
しかし、高齢期になると、加齢の為に摂食・嚥下機能は徐々に低下する傾向があります。障害の自覚がない高齢者でも、摂食・嚥下機能が低下していると言われています。又、脳血管障害やパーキンソン病などの疾患は、摂食・嚥下機能の低下(摂食・嚥下障害)をもたらします。摂食・嚥下機能が低下すると誤嚥を起こしやすくなります。誤嚥とは、本来、気管に入ってはいけない食物などが、気管に入ってしまう事を言います。誤嚥により肺炎(誤嚥性肺炎)を起こすことがあります。餅を喉に詰まらせて、高齢者が救急車で病院に運ばれることがありますがこれも摂食・嚥下機能の低下が背景にあると言われています。
口腔の機能を守るためには、歯科治療だけではなく、高齢者自らの健康を守るという努力が大切です。

2、摂食・嚥下機能の加齢変化

加齢により、摂食・嚥下機能は低下すると言われています。ここでは、口腔に関連した項目を紹介します

①唾液分泌量の減少
食物を味わうためにも、食物を飲み込めるようにドロドロの状態にするためにも、唾液は大切です。加齢による唾液分泌量の変化には様々な報告があります。安静時の唾液分泌量は減少傾向にあり、刺激時の唾液分泌量は減少しないようです。安静時の唾液分泌量が減少すると、口腔乾燥を感じることがあります。刺激時の唾液分泌量が減少しないということは、食事の時には唾液分泌量は減少しないという事であり、摂食・嚥下にとっては好ましい事です。しかし、病気そのものや、病気治療のために服用する薬の副作用で、唾液分泌量が減少する事があります。

②味覚・嗅覚の機能低下
食事を味わうためには味覚や嗅覚は大切です。味覚の加齢変化については諸説がありますが、塩味が感じにくくなると言われています。味覚障害の原因としては、亜鉛の不足や薬剤の影響などが指摘されています。
味覚は加齢により低下し、匂いが感じにくくなります。

③運動機能の低下、筋力の低下
口唇には食物の取り込みや、咀嚼中に食物が口からこぼれないようにするなどの役割があります。
舌には食物を歯の上に乗せて保持する、嚥下の為に食物を咽頭に向かって移動させるなどの働きがあります。又、咀嚼筋という筋群は、下顎(下あご)を閉じる働きがあります。摂食・嚥下には多くの筋肉が働きますが、加齢変化として口腔顔面筋群の筋力低下、舌運動の低下、口唇閉鎖機能の低下などが報告されています。
加齢による筋の機能低下を、他の筋の機能が代償することがあります。例えば、加齢による咽頭の機能低下は、障害を起こさないために舌や口腔の機能により代償されていると言われています。そのため、低下を補えなくなった時に、機能低下が明らかになってきます。

④喉頭の下降
喉頭は、大雑把に言えば「喉仏」のことです。加齢に伴い、喉頭の位置は下降します。嚥下時には喉頭が前上方に移動します。喉頭の位置が低下すると、嚥下の際に喉頭が移動する距離が長くなり、嚥下時に障害が生じやすくなります。

3、歯の喪失と義歯装着

高齢期には、歯が無くなるのは当たり前だと思っている高齢者がいます。しかし、歯の喪失は歯周疾患(歯周病)や齲蝕(むし歯)が主な原因であり、加齢の為とは言えません。歯は食物を噛み砕くためのみならず、食物を咽頭へと送り込む際に、下顎の位置を安定させるためにも大切です。嚥下するときには、上下顎の歯が接触し、下顎の位置を安定させます。下顎の位置の安定により、咽頭への食物の送り込みが円滑に行われます。歯を失った場合には歯科治療を受け、義歯などで上下顎の噛み合わせを回復させる必要があります。

4、口腔機能の向上

介護保険制度では、要介護状態や要支援状態となることを予防する介護予防が重視されています。口腔機能の向上は、運動器の機能向上、栄養改善と共に、介護予防の中心となっています。口腔機能の低下は栄養状態の悪化、運動機能の低下につながり、高齢者の社会参加、快適な社会生活を阻害することになります。
厚生労働省老健局老人保健課は2010年8月6日に、地域支援事業の根拠法令となっている、次の法令等を改正しました。これにより、「特定高齢者」という文言・表現は使用されなくなりました。地域支援事業における介護予防事業は二次予防事業の対象者(特定高齢者)と一次予防事業の対象者(一般高齢者)とを対象にしています。このうち、二次予防事業の対象者(特定高齢者)とは、生活機能の低下があるため、要支援・要介護になるおそれがあると認定されて高齢者を言います。二次予防事業では、主として要介護状態となるおそれの高い状態にあると認められる65歳以上の者を対象とし、口腔機能向上教室や介護予防教室の名前で、口腔清掃の自立支援、摂食・嚥下機能の訓練などが実施されています。歯科治療で行われる口腔清掃指導の主な目的は、齲蝕や歯周病の予防ですが、介護予防における口腔清掃指導は口腔清掃の自立を促し、気道感染予防(誤嚥性肺炎の予防)などを目的としています。
又、要介護認定において要支援1及び要支援2と認定された人を対象に、要介護状態への悪化防止や要支援状態からの改善を目指したサービスが行われています。選択的なサービスの一つとして、口腔機能が低下している物、又は低下しているおそれがある者を対象とした口腔機能向上サービスがあります。

5、口腔清掃の自立

口腔清掃は、口腔の健康を守る基本となっています。我が国では、歯を磨かない人は少ないでしょう。歯ブラシでの歯磨きは口の中の汚れ、主に歯垢を除去し、う蝕や歯周病を予防するためだけに行うと考えている人が多いと思います。しかし、むし歯や歯周病以外にも肺炎予防があります。
肺炎は、高齢者の命を脅かす疾患です。誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)の予防のためには、口腔清掃により口腔内の汚れを減らし、誤嚥したときに肺炎が起こる可能性を減少させることが重要と言われています。更に、歯を磨くという機械的な刺激が、嚥下反射、咳反射を向上させるという報告があります。口腔清掃には、歯科疾患の予防による口腔機能の低下を予防するだけでなく、全身状態の改善、口腔機能向上の効果があることを認識する必要があります。

6、口腔機能向上のための体操

口腔機能向上を目的とした口腔機能向上教室などでは、摂食・嚥下機能を始めとする口腔機能の向上を目的に口腔や顔面部を中心とした運動の指導が行われています。この運動はお口の体操、嚥下体操、口腔体操と呼ばれています。
口腔機能向上のための体操は、口唇を前方に突き出す運動、頬を膨らませたり、すぼめたりする運動、舌尖を前方に突き出したり、舌尖で口角(口の端)に触るなどの運動、パ・タ・カなどを発音する構音訓練、唾液腺マッサージ、深呼吸、首・肩・上肢の運動などを適宜組み合わせて行われています。
口腔機能向上のための体操は、口腔の健康が保たれていることが基本となっています。齲蝕や歯周病、歯の喪失などを放置せず、歯科治療により口腔の健康を維持・増進することが大切です。
又、効果的な運動を行うために教室に参加して指導を受けると良いでしょう。

7、唾液マッサージ

唾液の分泌を促進するために、唾液腺を指などで押してマッサージすることを唾液腺マッサージと言います。器質的な問題が無ければ、唾液腺マッサージによって唾液分泌量が増加します。マッサージ方法としては、自分でマッサージを行う場合と、自分で行えない時に家族や介護者が行う場合があります。
大きな唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下線)を皮膚の上から指でマッサージする方法が一般的です。
耳下腺のマッサージのためには、耳たぶの前から前方に向かって、指を移動させながら軽く摩ります。
顎下腺と耳下腺のマッサージのためには、下顎骨の内側を後方から前方にに向かって指を移動させながら上に向かって軽く摩るようにマッサージします。
又、舌の運動を行う事(舌の体操)やよく噛むこと(咀嚼)によって唾液分泌が促進されます。唾液分泌を増加させるためには、口腔の機能を使うことが大切です。

8、高齢期の歯と口の機能

歯と口の機能には噛む、飲み込む、言葉を話す、口元の顔貌を整えることなどがあります。そして適正な栄養摂取、コミュニケーションの形成や楽しく食事を味わうことなどが続きます。

①高齢期の歯と口の特徴
高齢期の歯と口の特徴として、唾液分泌の減少、歯数の減少、義歯使用などがあり、日常生活動作の低下があれば、お口の汚れの清掃不十分も加わります。義歯を支える顎骨が委縮し、下顎骨の太さが成人の小指大になる方もいます。この様な場合、義歯を装着しても外れやすく、十分に噛むことが出来にくくなります。
齲蝕と歯周病の並存があると骨から露出した歯の根(歯根)、歯と歯の間、歯と歯肉の間、治療した冠の中、などに齲蝕が出来ます。歯の喪失は、奥歯に多く、義歯を使用しても食物をすり潰す機能が低下します。
高齢者の口腔の特徴として、個人差が大きいことがあります。例えば、歯の数も個人差があります。同様で、若い時と同様に歯が多く残っている方がいる一方で、歯を全て失っている方もいます。
また、加齢や薬剤に由来する口腔乾燥や高血圧治療薬剤に伴う歯肉増殖にも個人差が個人差があります。
脳神経系疾病に由来するモグモグ運動があると、義歯を新たに作成する際の噛み合わせの位置を定める事が困難になります。更に脳血管障害後遺症の悪化などによって、筋の過緊張が起こります。これに伴い、顎(あご)が外れ、元に戻しても容易に再発する習慣性顎関節脱臼になることもあります。
廃用症候群の方では、嚥下機能の低下から、お口の汚れや飲食物が肺に入り、誤嚥性肺炎を起こす事があります。

②歯と口の健康作りに大切なこと
日常的に口腔を清潔に保ち、必要に応じて適切な歯科診療(定期的な診査、予防、治療)を受ける事が大事です。この事は歯の喪失を防ぐだけでなく、口臭や誤嚥性肺炎の予防に有効です。皆さんの努力の結果、歯の寿命は調査のたびに延びています。
お口の清掃が一人でできなければ、看護、介護の介入が必要です。又、薬剤による口腔症状があれば、主に内科医や歯科医に相談してください。モグモグ運動や過緊張に伴う顎関節脱臼があれば、神経内科や脱臼を整復固定する口腔外科との相談が必用です。
今回はこれで終了です。次回は「高齢期の口の機能の維持・向上」についてです。