電話番号

高齢者の歯と口の健康作り2 ─高齢者の歯と口の中の状態4

著者:デンタルオフィス湊

おはようございます。急に最高気温が高くなりました。関東でも梅の花、菜の花が咲き、間もなく桜も咲き始めるでしょう。でも、最低気温は差ほど上がっていません。朝、早く家を出たり、夜、遅く御帰りの方は、風邪対策に、一枚余分に羽織るものをお持ちください。今回は「高齢者の歯と口の健康作り2」です。

高齢者の虫歯、歯周病予防

高齢者でも、若い時と同様、予防は大切です。それに、若い時は口腔の変化にすぐ対応できますが、高齢者になると、歯を失って義歯を入れる場合でも、義歯を使いこなせなかったり、治療に対応する体力を失ったり、持病によって処置ができない事もあります。
更に、要介護高齢者になり、通院不可能になった時などは、十分な治療は出来ません。歯や歯肉は勿論、舌、頬粘膜等を、いつも清潔な口腔状態を保つことは大変重要です。
自分で口腔を清潔にできない人は、電動歯ブラシや、使いやすい口腔清掃用具を使用したり、専門家の力を借りて常に口腔を清潔に保つ努力をしておくことが必要です。
若い時、口腔清掃が十分であった人でも、高齢になると難しくなります。自分で口腔を清潔にすることに時間とエネルギーが必要になります。若い時から口腔にトラブルを持っていた人には、より一層の努力が必要となります。

歯を失う原因は?

口腔ケアの不足が一番の原因となるでしょう。セルフ・ケアを十分している人でも、最低、3カ月に1回は専門家のチェックとケアが必要です。
ましてや、口腔内に多くの補綴物のある人、義歯の入っている人、歯肉の状態や粘膜の状態、又、噛み合わせの具合など、かかりつけ歯科医を決めて、継続的に年に数回はチェックしてもらう事が必用でしょう。
出来るだけ自分の持っている機能を有効に活用し、予防に心がける事が大切です。高齢になると、口腔内の小さな変化にも気づかない事が多く、一方、新しい補綴物に違和感を感じて、その為になされる処置を受け入れようとしない人が多いのです。
高齢になってから大きな補綴物を入れるとなると、その補綴物の清掃なども含めて、ケアに時間もかかります。口腔ケアに時間をかけない人は、ますます自分の歯を失う事になるのです。
機能が落ちた人が、口腔内に残り易い食物を摂取する事になり、それが原因で、歯を失うという悪循環になります。
若い頃から口腔ケアをしなかった人が、高齢になってから口腔ケアを熱心に始めるというケースは稀でしょう。若い頃からの口腔ケアの習慣が大切であるゆえんです。

肺炎予防には、歯磨きが大切です。

健康な人でも、熟睡している時、誤って唾液を誤嚥することがあります。その時、健康な人は大抵むせて、肺に唾液が入らずに済みますが、機能の減退している高齢者は、肺に唾液が入ってしまいます。
口腔の中には、300~500種類以上もの細菌が常在しています。口腔機能が低下した人が、食物残渣のある状態で睡眠をとりますと、虫歯や歯周病を発症する菌が増加します。これらの菌の中に酸素を嫌う菌(嫌気性菌)が存在します。その菌を多く含んだ唾液を誤嚥してしまうと、肺に入った菌が肺炎を引き起こすという事が明らかになっています。特に歯周病を併発する細菌が、動脈硬化を起こした血管の中から発見されて、動脈硬化や心不全を引き起こすことが判りました。
健康な人は勿論ですが、体力の低下した人や、高齢に成って口腔機能の落ちた人は、口腔を清潔にするために、歯を磨くことは動脈硬化や心不全、糖尿病、肺炎を予防する為にも一役買っている事になります。

☆咀嚼と脳機能

咀嚼が及ぼす影響

咀嚼とは、口の中に入れた食物を上下の歯で噛むことを言います。食物を細かく粉砕し、よく噛んで、唾液と混ぜ合わせる事により、飲み込める状態にします。この時には口唇、頬、舌などの筋肉、下顎を開閉口する為の筋肉、唾液腺などが働きます。咀嚼中の口唇、頬、舌、下顎の基本的な運動パターンは、生命維持に重要な中枢である脳幹で形成されます。脳幹よりも上位にある大脳なども咀嚼運動の制御にかかわっています。脳幹では顎、口腔からの感覚入力や大脳皮質などの中枢性の入力によって咀嚼運動のパターンを作ると考えられています。
大脳の前部にある前頭前野は記憶や感情の制御など、様々な高度な精神活動を司どっています。前頭前野を常に刺激し、活性化させることが脳の健康の保持に役立ちます。咀嚼によってこの前頭前野が賦活されることが知られています。咀嚼を行うと、脳血流量や学習能力にかかわるアセチルコリンという脳内の神経伝達物質が増加します。咀嚼が脳を活性化させていることを示しています。脳内に放出される線維芽細胞成長因子は損傷脳細胞の修復、特に学習記憶形成を促進します。
繊維芽細胞成長因子は食物を咀嚼する事により分泌が促進されます。正常な咀嚼機能は食欲を増進させ、ストレスの緩和にも繋がります。従って、良好な咀嚼機能を保持し、美味しく食べる事が脳機能の維持にとって重要な事です。

歯の喪失の影響

高齢になると、虫歯(齲蝕)や歯周病(歯周疾患)の為に歯を失う可能性が高くなります。歯の喪失は、咀嚼機能を低下させる主な原因です。又、加齢に伴い、口腔周囲の筋肉などは筋量が減少し運動機能が低下し、咀嚼機能の低下を招きます。
歯の喪失、咀嚼機能の低下時は脳機能に大きな影響を与える事が報告されています。例えば、咀嚼機能の低下は海馬萎縮の原因の一つと考えられています。海馬は記憶や空間学習能力を司ります。アルツハイマー病の最初の病変部位として知られています。
三社神経は、12対ある脳神経の中で最大の神経であり、咀嚼に関係する筋肉(咀嚼筋)からの感覚情報を受け取る、又、咀嚼筋などの運動を支配する神経です。多数の歯の喪失により三社神経系の感覚情報が減弱すると、学習や記憶などの高次脳機能が阻害されます。
認知症と歯の喪失の関係についてはよく知られていますが、歯の喪失はアルツハイマー病の危険因子とされています。
たとえ歯の喪失が無くとも、多数の歯の虫歯(齲蝕)を放置した場合などの様に、咀嚼機能の低下が生じると、脳機能に対して歯の喪失と同様の影響を及ぼすと思われます。齲蝕、歯周病、歯の喪失などを放置すると、しっかりと咀嚼できなくなり、柔らかい物を食べるようになります。
動物実験では、柔らかい食物を食べていると、海馬内でのドパミン遊離が低下するなど、ドパミン作動性神経系に障害がもたらされることが報告されています。ドパミンの減少は好ましい事ではありません。ドパミンは神経伝達物質と言われ、高齢者に多いパーキンソウ病ではドパミンが減少します。

歯科治療の効果

義歯装着などの歯科治療を受け、咀嚼機能を回復する事によって、脳機能が活性化されます。義歯装着により前頭前野などが賦活されることが報告されています。義歯を装着してガム咀嚼を行った場合は、義歯を装着せずに行った場合よりも脳機能が活性化されます。ガム咀嚼は手指運動よりも脳に対する高い活性化効果があり、脳血管障害のリハビリテーションに有用な療法になる可能性を示している研究があります。
硬い食品が噛める高齢者は、噛めない高齢者よりも健康余命が長いと報告されています。健やかな高齢期を過ごすために、自らの口腔のケアにより、又、歯科医師、歯科衛生士による専門的なケアにより、口腔の健康(咀嚼機能)を維持・増進する事が必要です。歯の喪失や齲蝕・歯周病などを放置せず、歯科治療を受けて口腔の健康(咀嚼機能)を回復する事が健康につながります。
次回は「高齢期の口の機能を守る」です。