電話番号

高齢者と唾液 ─高齢者の歯と口の中の状態 2

著者:デンタルオフィス湊

おはようございます。今年の冬は気温が上がらない日が多くて厳しいですね。昨日、帰る時は雨で21時頃から雪に変わるとの予報でした。外れてくれることを願いながら地下鉄に乗りました。地上に出てみたら21時、雪が降っていました。天気予報凄いです。でも今年は外れてくれる方が嬉しい日が続きます。
前回の続きです。

高齢者と唾液

口の中の温度や湿度は、細菌の増殖にとっては最適な環境にあります。健康な場合は、唾液や粘膜からの分泌液によって細菌の過度な増殖を抑えています。つまり唾液や粘膜の分泌液には免疫物質や抗菌物質が含まれています。癌の発生物質に対しても働き、毒性を中和すると言われます。
高齢に伴う唾液分泌量の減少は、味覚異常や感染防御機能の低下を意味し、感染症に罹りやすい状況になっていることになります。極度に唾液分泌量が少ない場合は、感染症の予防や義歯の安定、粘膜の保護の目的で「抗菌性洗口剤」の使用が必要になります。唾液の減少は血圧、糖尿病などで使う薬の副作用によることもありますので、内科、歯科の先生に相談してください。

「抗菌性洗口剤」とは

歯周病や口臭を断つには、歯垢の除去が一番ですが、口中清涼剤が補助的に使用されています。その中でペパーミントなどの香料の他に、抗菌作用のある物質を入れたものを抗菌性洗口剤と言います。強い抗生物質を服用すると、口の中や、腸の中の常在菌のバランスが乱れ、腸の働きが弱くなったり、下痢になることもあります。それらの副作用を回避する為に、殺菌作用は低く、又効果も一時的ですが、抗菌性洗口剤を、あくまでも補助的に使います。
唾液の分泌量が少ない場合は、粘膜の保護、義歯の安定の目的で使用する事があります。かかりつけの歯科医師に相談してください。

老人性肺炎と口腔細菌

口の中には300種類を超す細菌が棲みついています。これらの細菌は、口の中で重大な歯科疾患を起こすような乱暴な細菌ではありませんが、、口腔以外の臓器に行くと、かなり危険作用をする事が報告されています。
例えば、誤嚥が起こり、口腔内の細菌が肺炎(特に老人性肺炎)、心臓の内膜炎、敗血症、血栓症、上顎洞炎、骨髄炎、眼下蜂巣炎などを引き起こします。特に免疫能力の低下した老人や糖尿病患者では、致命的になることがあるので注意が必要です。
高齢者の直接的な死亡原因として最も多い疾患は、老人性肺炎で、殆どが「誤嚥」(食物が誤って気管に入る事)によって発症してしまいます。老人になると、睡眠時に気が付かない内に、口腔細菌が肺や気管支に入ってしまうことがあります。特に寝たきり老人などでは、この誤嚥を防ぐため、上体を起こして嚥下しやすい食べ物をを工夫する必要があります。

味覚異常・障害

味覚異常は中高年に多く、男女とも50~70歳代に増加するようです。男性より女性の発症やや多いという報告があります。全身的な要因として唾液の分泌障害、貧血、薬の服用、金属イオン欠乏、心因性、その他のビタミン不足などですが、歯への被せ物が合っていなかったり、金属アレルギーなども味覚障害の原因になるようです。
加齢によって腸管吸収能が落ち、体の中の亜鉛が欠乏すると味覚障害になりますし、唾液分泌能の低下や、歯の喪失による咀嚼能力の低下も味覚障害の原因になっています。
まず偏食を直し、微量な元素類(亜鉛、銅、セレン、マンガン、コバルト、クロム、モリブデン、ヨウ素)などの欠乏が起こらないように注意する事が重要です。

咀嚼障害と機能回復

現状では、高齢者の多くが歯が無い状態なので、ややもすると「高齢者者には歯は無用の物」、「歯と長寿は無関係」などと言う声が聞かれるのは残念な事です。
人間の場合は、歯が無くなり、食事が不便になったからと言って、野生動物の様に直ちに栄養障害を起こしたり餓死する事はありません。歯が悪くなると噛めなくなる、噛みずらくなるだけだと思いがちですが、歯の機能は咀嚼機能だけでなく、発音機能、審美機能も大切な機能です。歯が無くなると会話や笑顔など日常生活、社会活動、家族関係に思わぬ制限が加わる事を意味しています。
歯が少なくなったり、無歯顎(歯が全く無くなった状態)になっても、あきらめる事はありません。どんな高齢者でも歯の治療や、義歯による機能回復に積極的に取り組むべきでしょう。それが快適な生活の第一歩になることは間違いありません。更に「寝たきり老人」が入れ歯を作り、噛める様になったら起きられるようになったという実例も、多く報告されています。

高齢者の歯科治療

高血圧症や狭心症、心筋梗塞など、心疾患、血管疾患あるいは喘息、慢性肺気腫などの呼吸器疾患、腎疾患、脳神経疾患など、高齢者になると程度の差はあるものの内科的疾患を複数抱えている場合も少なくありません。
そのような時、歯の治療の為に麻酔注射をしたり、痛み止めや化膿止めの薬を飲むことへの不安があるはずです。歯の治療をしなければならない場合には、先ずその治療によってどの程度のストレスが加わるかを、歯科の先生に診断してもらう事が第一です。そしてそのことを内科の主治医の先生に報告してよく相談し、歯の治療を進めるべきか応急処置で止めるべきかを判断するというのが基本です。
治療の危険性ばかりが頭にあって、歯の痛みを我慢していると、そのことがストレスになってトータルで-になってしまう事も考えておくべきです。
最近は「かかりつけ歯科医」を決めておくように日本歯科医師会も提案しています。普段から口腔状態の定期チェックばかりでなく全身的問題も含めて相談しておくと、いざというとき、適切なアドバイスが受けられると思います。

8020高齢者の歯と日常生活の関係

今まさに人生80年時代になりました。最近、政府が人生100年に対する、あらゆる対策を考えているそうです。平均寿命が急速に伸び、「老後」の期間が延長されました。そこで、一人々々が健康に気をつけ、生きがいのある充実した高齢期を過ごす事が求められるようになってきました。
脳血管疾患、癌、心疾患、高血圧、糖尿病などの成人病になっては、生きがいのある高齢期は望めません。一般に成人病は日頃の生活習慣などが要因となって、40歳代以降から老年期に問題になる病気です。最近は成人病というよりも「生活習慣病」という表現が使
われています。
歯周病もブラッシングや喫煙習慣による「生活習慣病」の一つです。若い時からの正しい生活習慣が、80歳になっても20歯以上が機能する基になりますし、不自由なく食物を食べられる事に繋がっていきます。高齢者にとって楽しい食生活は、そのものが大きな生きがいの一つですし、更に健全な食生活は健康維持から癌予防まで、高齢者の質の高い生活を支えてくれる資源でもあります。
高齢者になると自然に歯が悪くなるのですか?
虫歯や歯周病は基本的には感染症ですから、年齢に関係なく発症します。で自然に歯が悪くなるわけではありません。口腔内を歯ブラシで常に清潔にし、正しい噛み合わせが維持できれば、歯の喪失のほぼ100%は防止できるはずです。虫歯や歯周病の研究が進み、歯を悪くする原因の細菌がはっきりしてきています。事実80歳以上で20本歯がある人は年々増加しています。
今回はここまでとさせていただきます。次回は「高齢者の歯と口に健康作り」です。