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妊娠時に起こり易い歯と口の病気 ─妊娠期の歯と口腔内の特徴 10

著者:デンタルオフィス湊

こんばんは。
今日は「父の日」でした。
お父さんと楽しい時を過ごしたり、お父さんとの思い出にひたったりと、それぞれの「父の日」は、いかがでしたか?

さて、今日は、院長先生のコラムです。

第10回目です。
「妊娠時に起こり易い歯と口の病気」について話します。
歯と歯肉と粘膜や唾液についてそれぞれ簡単に説明します。

(1)歯について

妊娠中の虫歯の発生についてですが、現在、妊娠そのものが、虫歯の直接の原因ではないと考えられています。
昔は「子供1人産めば、歯を1本失う。」と言われていました。
昔から、妊娠中は歯や口の病気が起こり易いと考えられていました。
2008年頃の統計によりますと、女性は男性に比べて、各年齢での1人平均喪失歯数が高く、また、全ての歯種の平均寿命が短いそうです。そのため、妊娠から出産、育児までの間の生活全般域は、その変化が、口腔内に何らかの影響を与えるのではないかと考えられています。
そこで妊娠によって口腔内の変化が、虫歯を起こし易くする原因について列挙します。
①唾液のphが酸に傾く事。
②食生活の変化(嗜好の変化や摂食回数の増加等) 。
③口腔内細菌の増加。
ここで注意して頂きたいのは、お腹の赤ちゃんに母体の歯から、カルシウムが吸い取られると言うことは、決してないと言う事です。
患者さんの中に、赤ちゃんの成長・発育のために.私の歯のカルシウムが取られたと、かたくなに信じている方がいますが、それは間違いです。

次に歯の痛みや知覚過敏(しみる事)についてお話しします。時々、虫歯ではなく。健全な歯が疼痛発作を起こす事があります。この原因は、妊娠中に頭部が充血する事があるそうで、頭部が充血すると、歯髄も充血をきたし、歯の神経の興奮状態高まっていると、お互いの作用で痛みが起こると言われています。
この痛みは、1時的なものですから、心配はいりません。

次に歯の汚れや着色についてお話しします。
妊娠中は内分泌機能をの変化や唾液の性状が変化します。
また、倦怠感や不安、また神経質になりやすくなります。「つわり」がある場合は、歯磨きを避けるようになったり、嘔吐を避けるために、1回の食事量を減らして、回数を増やす事もあります。
また、妊娠前より甘い物の摂取が多くなっている場合は、歯には多くの歯垢(プラック、歯の汚れ)が付着し、着色(ステイン)も起こってきます。
以上の事から、妊娠中は、妊娠前のブラッシングよりも、より多く、より丁寧にする必要があります。
妊娠中は、出血し易くなりますが、出血しても異常ではありませんので、ブラッシングを止めたり、歯ブラシを軟毛に換えて、そっとなでる様に、磨かないようにしてください.。歯の汚れが除去できなければ、虫歯になる確率がや着色する確率が、高くなってしまいます
歯科医院で 、自分に合った歯ブラシ(大きさ、硬さ、毛の長さ、毛の性状、柄の形等)や磨き方を教わってください。

(2)歯肉について

妊娠初期から中期にかけて、前歯部、特に上顎の乳頭部から辺縁歯肉に発赤と浮腫が見られます。
これは妊娠性歯肉炎と言います。妊娠自体が原因だと考えられていたので、この病名が付けられました。
現在では妊娠自体が歯肉炎の原因ではないと考えられています。
原因はあくまでも歯垢(プラーク=歯の汚れ)や歯石等の局所的刺激因子によるものと言われています。この歯肉炎は軽いブラッシングでも出血するのが特徴です。
妊娠は歯肉炎を増悪させる因子だと考えられています。
つまり、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)が、軽い歯肉炎を顕著な病状を示す歯肉炎にしてしまう事があります。
又、歯肉をこ肥原させ、局所性に腫大させる、妊娠性エプーリスを引き起こすこともあります。他の原因によるエプーリスと違って、出産後に消失することもあります。ですから食事や話すことに支障がなければ、出産するまで経過観察をします。
いずれにしても、妊娠前の歯肉炎や歯周炎が増悪する可能性が高いので、妊娠前にブラッシングを習得していくことが肝要です。

次に歯肉の色についてですが、正常な歯肉は、硬く、引き締まっていて、弾力があります、しかし、表面はスティプリングにより、みかんの皮の表面のように、小さな凹みが見られます。歯肉炎や歯周炎になると、スティプリング減少して、表面がツルツルになります。
さて、歯肉の色ですが、メラニン色素(黒色)が、沈着していなければ、ライトピンクかサーモンピンクをしています。もちろん、年齢や色素沈着の程度によって、個人差があります。
色素沈着は簡単に除去できるものがありますので、歯科医院を尋ねてみて下さい。
妊娠中の口の中は、不潔になり易いので、歯垢や歯石が多量に付着している事がよくあります。
そのため、歯肉は出血しやすく、腫れたり、充血したりします。こういう状態の歯肉の色は、鮮紅色のものから、青みがかった赤色や赤紫色になったりします。
妊娠性歯肉炎の予防、または軽減するには、特別な方法は無く、歯と歯肉の間、歯と歯の間を丹念に、丹念に、磨いて、汚れを除去するしかありません。
歯垢(プラック)は、自分で除去できますが、歯石は除去できません。
歯肉の上のほうにある歯石の色は、一般に、歯の色に近いので、気づきにくいと思います。
しかし歯肉の下の方にある歯石は、茶色やこげ茶色、黒色のものが一般的です。これらの色は、歯石によって傷つけられた歯肉からの出血が、歯石にしみて入って、できた色です。できるだけ早く歯科医院で除去してもらう事をお勧めします。
妊娠による女性ホルモンの増加や、歯肉の炎症後に、メラニン色素が歯肉に沈着することがあります。気になる方は歯科医院に相談してください。
中には5分程度の治療を、1〜3回受けることで、きれいになるものもあります。

次に.歯肉の退縮(歯肉が下がること)についてお話しします。
歯肉の退縮は、細菌や物理的な影響によって起こると言われています。
具体的には、歯肉炎や歯周炎を繰り返したり、或いは、歯周炎が治る時に起こることがあります。
また、硬い歯ブラシで強く磨くと起こります。毎日きちんと歯磨きをしないで、炎症がひどくなってから、慌ててかたい歯ブラシでゴシゴシ強く歯肉をこすると、退縮する可能性が極めて高くなります。
お酒を飲んだ後に、歯を磨かないで、寝てしまう方は要注意です。妊娠中は、歯肉炎や出血が顕著になりますから、ブラッシングや歯間ブラシ、或いはフロスによる予防の大切さを実感できると思います。
この機会を利用して、口腔ケアを身に付けて欲しいと思います。
歯磨きのコツは、歯並びや歯列の形態によって個人差はありますが、一般的には、小さめの歯ブラシで、普通の硬さで、1カ所30回、磨くようにして下さい。初めは、歯肉が鍛えられませんから、1カ所10回から始めてください。

(3)口腔粘膜や唾液、口臭について

妊娠が始まると、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンの分泌が増えてきます。
この女性ホルモンは、唾液の中でも増えてきます。
妊娠中の女性ホルモンの増加は、妊娠から出産までの過程の中で、極めて重要な働きをします。しかし一方で、歯肉や口腔粘膜に対しては、マイナスに働くと言われています。
その理由は、歯肉や口腔粘膜の血管の透過性を高めてしまうからです。つまり赤血球等の血液成分が、血管から滲み出て、組織に流れ易くなると言うことです。
この状態は、炎症起こしやすい事を意味しています。
その結果、口腔粘膜や歯肉上皮等の様々な細胞が、バランスを失った増殖をし、良性の腫瘤を形成したりします。
また、歯肉炎や歯周炎の原因菌を成長させる事も報告されています。これはまだ確定ではありませんが、妊娠中の感染を防御する細胞性免疫を抑制すると考えられています。つまり、口腔粘膜や歯肉に起こる感染に対して、その抵抗力を低下させてしまうという事です。

次に妊娠の影響で口の中に起こる病気についてお話しします。
①歯肉炎
妊娠中は、先ほど述べたように炎症起こしやすい状態にあります。普段なら炎症が起こらないような小さな刺激でも、妊娠中は容易に炎症起こします。その中で1番多いのが、この妊娠性の歯肉炎です。
② エプーリス
炎症性エプーリスや腫瘍性エプーリス、特殊型のエプーリスがあります。
原因は、機械的刺激や炎症性の刺激、そして卵胞ホルモンや黄体ホルモン等の内分泌異常が考えられます。
発症の確率は、妊婦さんの約1%だと言われています。
治療は、他の原因によるエプーリスと違い、出産するまで様子を見ます。
女性ホルモンの分泌が、出産後、正常化します。すると、エプーリスも、次第に消失することがあるからです。
③口内炎
口内炎の原因は、いろいろありますが、とにかく口の中を清潔に保つことが1番大事です。
妊婦さんは女性ホルモンの影響で炎症が起こりやすいので、妊娠前の時より、清潔にすることが重要です。
④歯根膜炎と健全歯の歯痛
女性ホルモンの影響で、歯を支えている歯周組織や再生や回復が低下しています。歯が動揺したり、歯髄内の血行が悪くなって、歯痛を食したりします。しかしこれらの症状は一過性で、出産後になくなります。

最後に口臭についてお話しします。
妊娠中は口臭が強くなります。
理由は、何と行っても、口腔内の細菌の増加にあります。
細菌が増える要因は以下の通りです。
①つわりによってブラッシングの回数、1回の時間の減少。
②間食の取り方や、甘い物に偏る傾向。
③唾液の流れが変化、量の減少。(女性ホルモンによる)
④妊娠による不安や緊張(唾液の量を減少させる)
⑤妊娠による唾液のphの低下

次回は第11回です。
「妊娠中の歯と口の治療」ついてお話しします。

院長:荒内