歯科用のX線や麻酔薬

2020年3月27日


おはようございます。未だ世界的な新型コロナ感染症のパンデミックは緩やかにはなっていません。この原稿を書いている時に気温が上がり、陽気の良さに気が緩み、外は桜が咲き始めたのをきっかけに、名所に集まりそぞろ歩きや、少数のグループでピクニックをしたりと、外出が多くなっていました。何故、テレワークをするのか、なぜ学校が休みになったのかをもう一度思いだしてみましょう。

欧州、北米は外出規制をかけられております。どの国の若者の中にも、自分たちは重症化しないと、高をくくり「コロナパーティ―」と称して集って遊んでいる人々がいます。でもこの病気の事はまだ良く解っていないのです。高齢者の命を奪うかもしれません。政府発表の規制を聞いて、実行して欲しいものです。

今回は院長先生の第55回目のコラムをお送り致します。

 「歯科用のX線や麻酔、薬」

1、X線について

治療をする時には、前もって診断しなければなりません。成人や学童であれば問診によってある程度の診断がつきますが、幼児は問診が難しいので、保護者の方から問題のある部位や症状をお聞きすることになります。しかし的確な答えがなかなか得られません。そこでX線写真を撮ることが極めて重要になります。もし子供さんがX線撮影を嫌がる時は、保護者の方にフィルムを押さえてもらったり、口の中にフィルムを入れる撮影方法では無く、口の外にフィルムを置く方法を取ります。又、「行動変容技法」を用いて撮影を試します。「行動変容技法」とは、系統的脱感作、オペラント条件付け、TSD法によって子供さんが、治療できるようにする方法です。つまり始めは、極簡単なブラッシングから徐々に治療につなげていく方法(系統的脱感作)や、子供さんが何か出来たり、頑張ったら、そこを物凄く誉めて上げたり、ご褒美を上げる方法(オペラント条件付け)、またこれからどんな治療をするのか話したり(Tell)、これから使う道具を見せたり(Show)、触らせたりして、子供さんの恐怖心をできるだけ脱感作します。頃合いを見て、治療をしていきます(Do)。子供さんには、治療をしていると思われないようにしています。

それでも治療ができない子供さんには、意識をボーッとさせて恐怖心や緊張感を和らげる笑気吸入鎮静法を使います。どんな方法を使っても治療できない時は、保護者の方に今後どうするか決めて頂くしかありません。選択肢は2つしかありません。

1つめは、「行動変容技法」や「虫歯の進行止め」を使い、泣かずに治療ができるまで待つか、2つめは「泣いても、嫌がっても治療する」か、の2つです。保護者の方が選択される前に、それぞれのメリットとリスクを説明します。

話しをX線に戻します。

健康な乳歯は、心身の成長、発達期にある子供(幼児)さんにとって、噛む機能、発音、表情を形作る機能だけではありません。大人になった時に、永久歯の健康的で美しく整った歯並びを確保する為にも、極めて重要です。このように重要な機能を持つ乳歯に虫歯(齲蝕)や乳歯の外傷等、があれば問診や視診だけでは診断できません。顎骨の中では永久歯が成長を続けております。この時期に誤った治療をすると乳歯だけで無く、永久歯にも大きな障害を与えてしまいます。治療する乳歯とその下にある永久歯との関係を知る為にも、X線写真は必須です。又、顎の成長状態を知ることは、永久歯の歯並びや噛み合わせを知る上で重要です。顎の成長状態を出来るだけ正確に把握する為に、頭部X線規格写真が必要になります。皆さんが、X線の被爆を心配されてると思いますが、殆ど心配は要りません。X線撮影は安全だと、東京都歯科医師会が発表しております。具体的な放射線量は口の中にフィルムを入れて撮るデンタルX線1枚で約0,001ミリシーベルトと言われています。パノラマという上下顎を撮るパノラマは1回約0,003ミリーベルトです。これに対して胸部正面X線撮影では、約10倍に当たる、0,01ミリシーベルトです。自然に受けている放射線量に換算すると、およそ3日分の線量だそうです。つまり、普通の生活をしている時に受けている自然放射線量の3日分に相当するそうです。これでお分かりのように、歯科で使われているX線は安全ですから、保護者の方は、心配なさらないと思います。以前、私の患者さんの中に、X線撮影を最後まで拒否された人がいました職業は看護師さんで、毎年、胸部X線を撮影されていたにもかかわらずです。

癌や妊娠中の胎児に対するリスクも、ほぼ無いと言えます。例え、X線量が微少で問題がないとしても、出来るだけ線量を減らすにこした事はありません。そのために鉛を入れたエプロンを使用しています。鉛の厚さが、0,025mmであれば、線量は百万分の1に減少します。発癌性や生殖器に対する為害性は、限りなく0に近付きます。

2、歯科の麻酔について

私達が治療させて頂く時に、最も大切な事は、痛くしない事です。特に子供さんの場合、強い痛みを経験するというトラウマになってしまいます。トラウマになるとその後、むし歯や歯周病、抜歯等、全ての治療を避けるようになります。多少の痛みは我慢してしまいますから、病気はどんどん悪化していきます。歯科疾患は口内炎や歯肉の軽い外傷以外、自然に治る事はありません。トラウマにさせない為に、歯を削ったり、歯を抜いたりする以外でも、例えば、ラバーダムを装着する時にも麻酔をすることがあります。ラバーダムとは、器具を飲み込むのを防止したり、唾液や血液が入り込まないように、治療する歯をゴムシートで孤立させる器材のことです。ゴムシートで他の歯を覆い、患歯だけがゴムシートの上に出るようにします。

麻酔には、いくつかの種類がありますので説明したいと思います。

①全身麻酔

この麻酔は完全に意識が無くなりますので、小児歯科では主に行動管理が難しい心身障害児の歯科治療に用いられます。又、3才以下の幼児で、むし歯の数が多い時にも使われます。コミュニケーションをとるのが難しい子供さんの歯科治療にはとても便利です。しかし全身麻酔をかけるには、麻酔医がいなければなりません。又、全身麻酔の為の専門の設備や、入院施設も必要です。ですから一般の歯科医院では行われません。

②局所麻酔

これには麻酔薬の作用部によって、脊椎麻酔、硬膜麻酔、局所浸潤麻酔、伝達麻酔そして次の③で述べる表面麻酔があります。最も頻繁に使われる麻酔です。大人の患者さん以上に子供さん治療に使われます。注射は痛くて、恐ろしいものと思われていますが、歯科医はそれを出来るだけ無くす為に、様々な工夫や努力をしています。例えば、注射針ですが、太さは0、2mm(33G)と極めて細い物を使っています。糖尿病でインスリンを打つ為の注射針の太さが、世界で一番細い、0,18mm(34G)ですから、2番目に細い歯科の注射針は痛みを殆ど感じさせない太さです。

又、注射する前に、表面麻酔をしたり、鎮静法を用いたりします。注射の刺痛を和らげる為に、更に工夫をしています。先ず、注射液を体温と同じくらいの温度に温めておきます。刺入する直前にバキュームの音を出したり刺入点近くの歯肉を指で押して、患者さんの気をそらしたりします。又、神経の分布が少ない歯間乳頭部に注射します。そして呼吸にも配慮しています。吸う時より吐いている時の方が痛みが少ないと言われていますので、刺入する時は患者さんの呼吸に合わせて、吐く時に刺入しています。注射器が子供さんに分からないように、アニメのキャラクターを注射器に貼り付けたりもします。

麻酔薬は数多くありますが、現在使われているのは、リドカインという者です。最も安全な麻酔薬で、ショックを起こす可能性は皆無と言ってもいいくらいです。注意して欲しいのは、麻酔効いている間の咬傷です。麻酔は通常、麻酔処置後1~2時間効いていますから、子供さんが、唇や舌、頬ッぺを噛まないようにくれぐれも注意しててください。

③表面麻酔

これは注意する前に、針を刺入するところに、ジェル状の麻酔薬を塗ります。これを表面麻酔と言います。針を刺す時の痛みを軽減したり、スケーリングや直ぐに抜けるグラグラの乳歯の抜歯等に使います。

④鎮静法

時々、混同されるのは、鎮通と鎮静です。鎮痛が出来れば若干の鎮静はあります。又、鎮静が成功すれば、若干の鎮痛効果が期待できるかもしれません。つまり鎮痛とは痛みそのものを和らげたり、消失させることです。ですから痛みが無くなると気持ちが落ちついてきます。鎮静とは、恐怖や不安を和らげることです。鎮静薬にはさまざまな副作用がありますので、出来れば鎮痛を徹底的にやって、鎮静薬を使わないで処置することが望ましいと言えます。どうやっても歯科治療が怖いと感じる歯科治療恐怖症の患者さんや、トラウマになり易い患者さんには、治療を始める前に鎮静法によって不安や恐怖心を和らげるようにします。

歯科治療恐怖症(dental phobia)は、歯科治療で恐ろしい思いや、不快な体験をされた方に起こります。或いはデンタルショック等を経験したり、また一般内科や小児科等で注意された時、一時的に気分が悪くなったり、アネミア(貧血)を起こした場合、それが体調不良の原因ではないかと過剰に思い込み取り越し苦労をして、心身交互作用の悪循環回転される、いわゆる「負のスパイラル」に陥る事によって発症すると言われています。

鎮静薬を投与する方法には、飲み薬や座薬、静脈注射等として使う方法と、笑気ガスを吸入する方法があります。使い易さと安全性から通常は、「笑気吸入鎮静法」が使われています。この名前は、麻酔初期の段階で顔の筋肉が麻痺によって顔が笑ってるように見える為、1975年Davy医師により  「笑気ガス」と命名されました。このガスは、1776年に英国のPriestly医師のより作られ、1844年、歯科医師Wellsが抜歯手術への道を開いたが、公開手術で失敗。

1863年 Coltonが歯科治療に応用して成功。

1865年 アイルランドのAndrewは笑気に酸素を混合して、麻酔の安全性を高めた。

すべての歯科治療に使えますが、鼻がつまってる患者さんや妊娠初期(約4ヶ月まで)、乳幼児、精神障害者は避けた方が無難です。

笑気吸入法では、笑気ガス(亜酸化窒素)を20~30%に対して、70~80%の酸素と混ぜて、この混合ガスを吸入させます。口に吸入マスクを当てて、治療が終わるまで吸入してもらいます。極めて簡単で安全性も高いです。恐怖心を低下させ、疼痛閾値も高めてくれます。この笑気ガスを使うには、患者さんからの協力が得られることが前提ですから、泣き叫ぶ子供さんには使えません。ですから、お母さん方や保護者の方の協力が最も重要です。

今回はここで終わらせて頂きます。

次回は第56回です。抜歯後の注意点や薬についてお話させて頂きます。