成人期の歯と口の健康作り・歯周病治療の原則

2020年2月7日


おはようございます。2月に入りました。今までが平年より暖かだったのですが、ようやく冬らしくなってきました。札幌雪まつりは、やっと降った雪で雪像が作れました。ホッと胸をなでおろしたのもつかの間で、コロナウイルスの拡散で中国からの観光客が激減し、観光による収入も激減する模様です。それどころか、コロナウイルスによる肺炎がいよいよ猛威を振るってきました。マスクや手洗い嗽等、先週のコラムも参考に、気を付けてまいりましょう。早くワクチンができると良いですね!新型コロナウイルスのピークは4月と考えられています。

今週は、熱田がコラムを書かせて頂きます。

「成人期の歯と口の健康作り・2」

―歯周病治療の原則―

①歯周病も感染症の一種

病気治療の原則は、その病気の原因を取り去る事です。病気の原因を特定できるときは、これを取り除く事で病気は治ります。これを「原因除去療法」と言います。

肺炎を罹ったら、肺炎の原因菌である肺炎菌に効く抗生剤を飲んでいただきます。感染症である肺炎の原因菌は、元来私たちの体の中にはいない細菌です。これを常在菌に対して、病原菌と言います。ですから、抗生剤を飲んで細菌を殺せば体内からいなくなって肺炎は治る事になります。

歯周病も感染症の一種なのですが、原因菌を特定するのが難しく、数種類いることが判っています。もともと口の中に棲んでいる細菌が量的あるいは質的に変化したり、体の抵抗力が低下した時に発病するのが一般の感染症と違うところです。つまり、歯周病の発生は、細菌が主体ではなく、生体の抵抗力が主体となります。

抗生剤を飲むと下痢をしたり、便秘になる人がいますが、いつも腸の中に棲んでいて、消化を助けたり、外来細菌の侵入を防止する役目をする細菌が死んでしまい、腸内を構成する細菌バランスが変化するからだと考えられています。

同じことが口腔常在菌についても言え、抗生剤や殺菌剤で歯周病の原因菌である口腔常在菌を殺すには限度があり、また外来菌の侵襲やカビに対する抵抗力が減少するので、体を防御するうえでも、口腔常在菌を全部殺してしまうと危険を伴なう事になります。

②プラーク・コントロール、歯石の除去

歯周病の大きな原因であるプラークをできるだけ少量にしておく、あるいは歯周病が起きない程度に抑えておく事を「プラーク・コントロール」と言います。プラーク・コントロールの方法を次の表に示します。

一般的には、私たちが家庭で、歯ブラシ、歯間ブラシ、あるいは、糸ようじ(フロス)などを使って、歯の上のプラークを取り除いた時、歯肉が正常な人が、ていねいにプラーク・コントロールを行えば、理論的には歯周病は生涯を通して予防できることになります。しかし、成人期の約80%の人が歯周病に罹っており、正常歯肉を持っている人は少ないと言われています。

プラーク・コントロールの分類

実施者 専門家、歯科医師、歯科衛生士 患者
実施場所 歯科医院 家庭
対象 歯肉縁下プラーク、歯肉縁上プラーク 歯肉縁上プラーク
手段
└物理的
スケーリング、ルート・プレーニング、歯周外科治療 歯ブラシ、デンタル・フロス、歯間ブラシ、トゥース・ピック
手段
└化学的
殺菌剤、抗生剤 歯磨き剤、洗口剤
手段
└生物学的
プロバイオティクス*含有錠菓

*プロバイオティクス:腸内や口腔内の細菌叢のバランスを改善する事によって生体に有益な作用をする微生物、乳酸菌などの生きた細菌のこと。この細菌の働きで生体の健康を維持するという考え方が広まってきている。antibioticsは抗生剤ですが、probioticsは共生という意味です。

歯周病の特徴の1つにポケットが出来ることがあります。このポケットの中(歯肉の下)のプラークは増えていきますが、ポケットの中のプラークを歯ブラシなどの清掃用具で取り除くのは少し難しいです。正常な歯と歯肉の間の隙間は、約1,5mmですので、歯ブラシの毛先をこの中に入れ、プラークを取ることは可能です。しかし、ポケットがある場合は、日常家庭で使っている清掃用具でポケット内のプラークを完全に取ることはできないのです。

これを知らずに、歯ブラシだけで歯を磨いていてもプラークはますます溜まるだけで、更にポケットも深くなります。ポケットの底に溜まったプラークが量的に増えたり質的に変化し、膿の袋を作って腫れます。こうなると痛みが出ますので、歯科医院に行くしかありません。我慢して歯ブラシをゴシゴシかけたり、家にあった抗生剤や鎮痛剤を飲んでいると、膿の袋が破けたりして症状が治まることがあります。これで治ったと勘違いしてはいけません。このような経験のある方は早めに歯科医院へ行く事をお勧めし

ます。

ポケットが原因で歯肉がよく腫れる人は、相当重症になっていることが多いので、是非、歯科医院で診てもらってください。

歯周病に罹って深いポケットができると、歯ブラシや歯間ブラシで歯肉の下のプラークを取ることができなくなります。また、磨き残したプラークは次第に硬くなり、歯石に なります。これも歯ブラシでは取れませんので、専門家である歯科医師や歯科衛生士さ んに除去してもらう必要があります。

深いポケットの中にあるプラークや歯石はスケーラーという器具で取り除きます。目で

見えないところからプラークや歯石をとりますので、専門家の技術がとても重要になり

ます。

③歯周外科手術

重症のケースでは歯周外科手術が必用なこともあります。歯周外科手術をしても、歯周病が完全に治ることはありません。

この手術はプラークや、歯石と歯肉の病気の部分を取り除いて治します。歯周病の大きな原因であるプラークは一時的になくなるだけで、永久的になくなるわけではありません。

手術後、物を食べればプラークはまた付き始めます。ですから、手術後のプラーク・コントロールの良否が歯周外科手術の結果を左右すると言われています。プラーク・コントロールと共に食習慣や生活習慣の改善が極めて大切になります。

➃入れ歯、ブリッジ、インプラントの装着とプラーク・コントロール

歯を固定したり、長持ちしない歯を抜いて入れ歯(義歯)を入れたり、ブリッジやインプラントにすれば歯周炎の進行は食い止めることができるのかというと、これもそう簡単にはいきません。

歯周病の原因であるプラークは、歯のみならず金属、歯科用レジンなどにも付きます。簡単に言うとプラークは口の中にあるもの全てに付くので、固定した歯や部分入れ歯、とりわけインプラントの周りは天然の歯以上に手入れを十分にすることが大切です。歯ブラシのみならず、他の補助的清掃用具の使用法の指導も受け装置の周りのプラーク・コントロールをしっかり行う事が、装置を長持ちさせ、歯周炎やインプラント周囲の炎症の再発予防に役立ちます。

⑤噛み合わせのチェック

また、噛み合わせも歯周病のリスク・ファクターとなるので微妙な変化を長期にわたってチェックしてもらう必要があります。そのために、気軽にいつでも歯や口の検診や治療を受けることのできるかかりつけ歯科医(ホーム・デンティスト)を持つことをおすすめします。

超高齢化社会を迎えるにあたり、生涯、丈夫で美しい歯や口の健康を保ち、快適で豊かな生活を送るためには、生活習慣病であるむし歯や歯周病を予防しなければなりません。 また、むし歯や歯周病の特徴を知り、コントロールの方法を家庭で実行し、定期的にかかりつけ歯科のとこ

ろで歯や口の健康状態をチェックしてもらい、病気の早期発見、早期治療を行うことで、

目的は達成できると思われます。

―噛む力と歯周病との関係―

一般に、歯周病(歯周疾患)が進行すると歯を支える組織が破壊されるので、歯の揺れが大きくなり、噛む力が低下し食べ物が噛みにくくなります。歯周病の進行のよって歯周病に罹った歯の噛む力がどのように変化するのかを調べた研究があります。30歳代の156名の患者さんの歯周病に罹っている歯を支えている歯槽骨(歯を支えている顎の骨)の吸収の程度によって、4つのグループに分けました。歯槽骨の吸収が歯根(歯の根の部分)のながさの1/4以内(歯周病軽症群)、1/4以上1/2以内(中等症群)、1/2以上3/4以内(重症群)および3/4以上(極悪群)に分けて、それぞれの歯の噛む力を調べ、歯周病に罹っていない正常な歯(正常群)と比べてみました。各歯別の噛む力は、いずれの歯についても正常群>軽症群>中等症群>重症群>極悪群の順に低下しました。歯周病に罹った群間でも、各歯別にみた噛む力に差が見られました。

顎や歯別によって多少の違いがありますが、正常群の噛む力と比べると軽症群では約5~20%、中等症群では約25~50%、重症群ではやく50~70%、極悪群になると80~90%の低下が見られました。このことから、歯周病が進行して歯を支える歯槽骨が吸収されると、どの歯についても噛む力が低下すると言ってよいでしょう。別の研究では、正常な歯別に見た噛む力は、第二大臼歯で22,25㎏、大一大臼歯で14,43㎏、第二小臼歯で4,72㎏、第一小臼歯で3,44㎏でした。歯周病に罹っている歯の噛む力の順序は正常な場合と変わらなかったのですが、歯周病が進行すると噛む力は低下すると報告されています。

それでは、歯周治療を行うと食べ物を噛む能率(咀嚼能率)はどのように変わるのでしょうか?生米を使って咀嚼能率を調べた研究でも、歯周病が進むと低下することが示されました。プラーク・コントロール、スケーリング、ルート・プレーニング、噛み合わせの調整、歯周外科手術などの歯周治療を行うと、咀嚼能率は歯周治療後、平均で34%増加し、重症例では治療前の平均が48%であったのが、平均81%へと増加しました。ブラッシング指導、スケーリング、ルート・プレーニングによってプラークを取り除き、揺れている歯同士を連結して補強するなど歯周病の基本治療のみでも、歯肉の炎症が改善されると、噛む力や咀嚼能率が改善され、調和のとれた噛み合わせになることが示されています。

―メインテナンスー

歯周治療の特徴は歯周基本治療、歯周外科治療や口腔機能回復治療などの積極(動)的歯周治療(active periodontal therapy)が終了した後にメインテナンスやサポーティブ ペリオドンタル セラピー(supportive periodontal therapy:SPT)などの支援(持続)的歯周治療が治療を成功させるために不可欠となることです。

メインテナンスとは、歯周基本治療、歯周外科治療、修復・補綴治療などの口腔機能回復ちりょうにより治癒した歯周組織を長期間維持するための健康管理になります。歯周病は(歯周疾患)はプラークコントロールが不十分だと容易に再発することから、定期的なメンテナンスが必須となります。メインテナンスは、患者さんが行うセルフケア(ホームケア)と歯科医師、歯科衛生士によるプロフェッショナルケア(専門的ケア)から成り立ちます。一方、SPTとは、一連の積極(動)的歯周治療により病状が安定となった歯周組織を維持するための治療、プラークコントロール、スケーリング、ルートプレーニング、咬合調整などの治療が主体となります。

歯周治療後の治癒とは、歯周組織が臨床的に健康を回復した状態を言います。歯肉(歯ぐき)の炎症がなく歯周ポケットは3mm以下、プロービング時の出血が無い、歯の動揺は生理的範囲を基準とします。しかし、この臨床的治癒が起こるのは、ごく限られた症例(歯肉炎および軽度歯周炎)、あるいは全額の中のある一部分(唇・頬側あるいは舌・口蓋側、1~2歯、あるいは1/3顎単位など)で起こるのが一般です。

中等度以上の歯周炎に対して適切な歯周治療を行うと、治癒では無く病状安定になることが多いのです。病状安定とは歯周組織のほとんどの部分は健康を回復したが、一部分に病変の進行が休止しているとみなされる4mm以上の歯肉ポケット、根分岐部(根と根の間)病変、歯の動揺などが認められる状態を言います。

病状安定は、医学的には寛解という用語に相当し、永久的あるいは一時的を問わず病気による症状が良くなる、または消失することを指します。すなわち、一般的な意味で完治せずとも、臨床的に「問題ない程度」にまで状態が良くなる、あるいはその状態が続けば寛解したとみなします。このことは歯周病、とりわけ歯周炎治療後の状態に良くあてはまります。

SPTは、学問的にはメインテナンスと類義語として使われることが多いのですが、日常の臨床現場では「メインテナンスは治癒した歯周組織の健康管理」を意味し、「SPTは病状安定した歯周組織を維持するための治療」と分けて使われています。

「成人期の歯と口の健康作り」はこれで終わります。次回は「成人期の栄養と食事」をお送りします。