電話番号

総入れ歯のトラブル④ ─高齢期になって現れやすい歯と口の病気8④

著者:デンタルオフィス湊

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
今年も皆様にとりまして
良い年であります様、お祈り申し上げます。
年末から関東地方も真冬の寒さになりました。皆様は、年末から年始を如何お過ごしでしょうか?旅行?実家でごちそう三昧、…etc.久しぶりの休暇を満喫なさったと思います。今年も頑張ってまいりましょう。
今回は熱田のコラムの続きを書かせて頂きます。
「高齢期になって現れやすい歯と口の病気8④」
「総入れ歯のトラブル④」

1,義歯が大きすぎる

口元が貧相に感じる小さな義歯を入れていた人が、口元のしわを伸ばすために本来の大きさの入れ歯を入れた場合には大きすぎるように感じます。これはしぼんでいた筋肉を伸ばした為に出っ歯になったように感じます。義歯の咬合高径(噛み合わせの上下的なたかさ)が前の義歯よりも高くなった時、又、咬合高径が低くても人工歯の配列位置が外側へ寄り過ぎたり、辺縁が厚すぎる場合にも大きすぎる感じがします。
しかし、見た目が良くなり鼻唇溝(小鼻から口角にかけて走る溝=法令線)のしわの深みも回復されて、若々しく健康そうに見えてきます。何度も述べるように、異物に対する拒否反応がありますので、最初はなじめませんが、時間の経過と共に馴染んでいきますので練習をしてください。
ここで大切なことは、義歯に対する「こころ」の持ち方です。義歯を何のために入れるのかを、明確にすることによって義歯を使いこなしたり、慣れる時間に差が出てきます。

義歯に慣れるコツⓐ
一番早く義歯に慣れるようになるコツは、常に、「なぜ義歯を入れないと元気で長生きできないのか」、と言う事や「義歯による咀嚼は生命の維持に極めて重要な意義を持つ」と言う”義歯の効用„を念頭に置く事です。
義歯を入れるだけで、握力が強くなります。くいしばれるから頑張りが効くようになり、身体がフラフラしなくなります。噛めるようになると脳が刺激され、脳血流量が増加します。脳血流量が増すと、人が生き返るというデータがあります。それをご紹介します。
脳血管障害により植物化した重度意識障害患者31名に対し、直立姿勢訓練、経管栄養補給から徐々に姿勢を正しながら家庭食咀嚼に移行させたところ、5名で全ての生活行動が確立され、残りの6名で排泄行動、6名で会話行動、5名で食事行動がそれぞれ確立され、更に約70%で各行動が介助で可能になっている、という驚異的とも言える臨床所見が発表されています。これは、末梢性の中で最も強い覚醒作用を持つ三叉神経を介して脳へ伝達される口腔・顎・顔面領域からの感覚性入力によるものと考えられています。このように、咀嚼は行動的な覚醒作用をもたらすことが立証されています。まさに、「生きるということは噛む事であり、噛む事は元気で長生きの源泉」と言えます。
義歯で噛む事によって、ボケを防ぎ、癌や糖尿病などの病気を防ぎ、元気になります。目もパッチリして勢いが出てきます。骨粗鬆症を予防し、姿勢が良くなり、内臓が若返るなど、挙げるときりがないくらいです。
そのために、筆者は必ずo-ringテストを行って、患者さんにその違いを示すと、皆さん目を丸くしてびっくりします。上下の義歯を外して、利き腕でない方の親指と人差し指でo-ringを作ってもらい、開かれない様に指に力を入れてもらいます。引っ張る人はその輪の中に両方の親指と人差し指の先を合わせて、左右へ引っ張りますと、すぐ外れます。次いで義歯を入れてから行いますと、なかなか外れません。上下義歯を装着するだけで、力が出る事の証明です。

義歯に慣れるコツⓑ
新しい義歯で食事をする場合は、最初は強く噛まなくてもよい軟らかめの物を選び、少量
を口に運び、ゆっくり噛み始めて下さい。初めのうちは口の筋肉も対応できないので、奥歯の頬側に食べ物が溜まりますが直ぐにたまりにくくなっていきます。
義歯は原則として、食事のあとは外して軽く水洗いします。夕方、お風呂に入る時は、外して歯ぐきを休めましょう。義歯を外した時は必ず義歯より少し大きめの器に水を入れて、その中に入れておきましょう。義歯を装着しない場合は、必ず水の中に入れましょう。時々、義歯洗浄剤の中に入れると効果的ですが、入れる前に唾液や食物残渣をブラシで取り除いておくようにして下さい。義歯を乾燥させたままにすると変形します。

2、義歯が緩い

義歯が緩くてすぐ外れる、あくびをするとはズレて来る、会話中に外れてくる、などの訴えが日常よく聞かれます。
義歯は長期間使用していると、歯槽骨(土手の粘膜の内側にある顎の骨)の吸収が起こり、土手が低くなってしまいます。義歯床自体も減ってきて、義歯床と粘膜との間に隙間が出来て、緩くなります。当然、食物残渣(食べかす)が入り込んで不潔になりますし、細菌も繁殖して炎症を起こし、歯槽骨の吸収を促進するようになります。
又、どちらか一方の側でばかりで噛むなどの習慣性咬合により、左右の高さが違ってきて、噛み合わせも低くなり、顎関節に影響が及んできます。
こういう場合には、義歯床の裏側を粘膜調整剤で調整し、リライニング(義歯床の減った部分を修正する操作)を行いますと改善されます。

3、義歯安定剤について

「義歯安定剤」は、新義歯装着直後のまだ慣れない時にお使い下さい。出張とか、旅行へ行く場合は使っても構いませんが、常時使用はお勧めできません。義歯安定剤は、水溶性の材料(粉末、クリーム、又は液体)に限ります。非水溶性材料は使ってはいけません。例えば、ホームリライナーキット、ホームリペアーキット、その他の患者自身で取り扱う、クッション材料に関しては、咬合状態や咬合高径が常に不安定になるため、深刻な骨破壊をもたらすと臨床報告がされております。
又、粘膜と義歯床の両方に粘着する水溶性の薄い板状製剤も、流動性がないために、粘膜に対して咬合圧を分散する能力持っていないので、使わない方が良いでしょう。
今回で「総入れ歯のトラブル」は終わりとなります。次回から「全身の疾患と歯科治療」について書かせて頂きます。